嘘でいいから、 抱きしめて



「─ねぇ、あいつ、どうしてるの?」

表情が、一瞬で変わる。笑みが、消える。
櫂を見る目は一瞬で冷めたものになり、纏う空気が変わる。

「日々、病院の個室でリハビリをしつつ、食事と睡眠を取らせている。食事の栄養管理は僕が担当し、君からの要望通り、誰の目にも触れさせず、僕が健康管理をしている」

直に許可を取りに行った翌日。松山さん経由で届いた手紙には、黒宮千春の取扱説明が書かれていた。
特に不用意に他者と関わりを持たせないように書かれており、ハルは入院し始めて、1ヶ月と少し。

ずっと、ひとりで日々を過ごしている。
その横顔はどこか寂しそうで、

「そう」

見舞いにも来ないにもかかわらず、要求はハルを孤独にするもので、興味のない姿に疑問を抱く。

「君は、ハルが嫌いなのか?」

「……驚いた。随分、直球で聞いてくるんだね」

少し呆気に取られた顔をしたミヤは、

「嫌いじゃないよ。それどころか、愛してる」

そう言って、微笑んだ。

「誰よりも、何よりも、大切な存在だ」

「……ならば、何故、僕に任せる」

「?、君はドクターだろ?」

「僕は松山さんのような、きちんとした医者ではない。その事は僕のことを調べた君ならば、知っているはずだが」

「……」

「─本物の君ならば、僕を欺くくらい、お手の物のはずだ。ハルを連れ出すくらい、造作無いことだろう。しかし、それをしない。君は『愛してる』と言いながら、まるで、ハルを避けているようにも見える」

今、櫂が話している内容は、ここ2ヶ月近くを通して、たどり着いた仮の話に過ぎない。

今も病室でひとり、ハルは暇しているだろう。

『薄情者だから、誰も来ないよ』

と、ハルは笑っていたが、誰も来ないのは、ミヤが手を回しているからだ。

愛していると言いながら、ハルを孤独に導く姿は歪んでおり、それでいて、櫂にハルのことを丸投げしている当たり、何が狙いなのか解らなかった。

「いやー……そっか。ミトさんから見たら、そう感じるんだね。組織の皆は詳細を知ってるから、気が抜けて、僕─俺も、演技力が落ちたかな」

「どういう意味だ」

「え〜そのままの意味なんだけど。ね、ミトさん。俺はハルを愛している。その気持ちに偽りなんかはないよ。でもね、俺はそれ以上に怒ってもいる。過去のことで許せない、とか、そういう気持ちではなく。純粋に己の身を大事にせず、他者の言葉を受け入れないハルに憤っている」

櫂は、ミヤが言うことを理解できそうな気がした。
ハルは想像以上に鈍いのか、かなり、厄介な患者だった。

早く退院したいと言いながら、食べないし、眠らない。
夜勤担当看護師によると、ハルは夜中もずっと起きているらしい。休むように言っても、笑うばかりで言うことを聞かないのだとか。

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