だから、あたしは
26 愛しい人
「すぐに元気になるよ」

 宣言通り、事故の翌週には車椅子で院内を散歩できるようになっている。入院していたのは二十日間。そして、いよいよ、明日から騎士の学校生活が始まることになったのだ。

 この日のあたしは騎士の着替えを手伝うことにした。彼は生き生きとした顔で張り切っている。

「今日から学校に行くぞ。いずみ、俺の車椅子を押してくれるか」

 介護用のタクシーで学校に向かうと、早速、クラスメイトが取り囲んで励ましたのだ。

「騎士、無理するなよな」

「必要ならば、俺が尿瓶を差し出してやるぞ。ションベンしたくなったら、いつでも言えよ」

 そんな菊太郎に対して皆が苦笑している。騎士もプッツと吹き出している。

「菊太郎……。トイレは車椅子専用のトイレでやるから心配するな」

 いい感じ。笑顔が広がっている。季節はまた一歩先へと進んでいるのね。最近、朝になると吐く息が白くなっている。秋から冬へと変わっていくのを肌で感じる。

「何にせよ、騎士、元気になって良かったよな……」
 
 菊太郎、桃園、大河内、鈴木先輩。みんな、あたしにとって大切な存在だわ。

 特に、騎士は、誰よりも大事な人になっている。

 もちろん、悲しいことや、怖い事や、心細いことなど、いろんなことがあった。でも、それを乗り越えている今は楽しい。あなた達に会えて幸せだと心から言える。

 最初は日本で暮らす事が嫌で仕方がなった。敵等に時間を潰すつもりだった。だけど、ここに来て、あたしの世界が大きく広がった。あたし、ここに来て良かった。

 素敵な恋人に巡り会えたんだもの。日本の四季の美しさを感じながら、親友に向けて近況を綴っていくことにする。 

 あたしの恋の顛末を伝えたい。

 だから、日本で買ったプレゼントに添える手紙をしたためていく。
        
     ☆      
 
《レイラ、久しぶりですね。今回、同封したものは、こないだ京都で買った風呂敷と和紙を使ったポストカードです。こないだ、騎士の母親と一緒に女子旅をしました。いつか、この人が未来の義理の母親になるのかなぁと思いながら一緒に嵐山や伏見稲荷へと行きました。そして、京都の次に神戸と宝塚にも行きました。色々と楽しかったです。もうすぐ十二月になります。騎士の脚のギブスも完全にとれる日が近くなっています。年明けには、理事長さんも退院して、この家て暮らすことになります。転校して以来、色々と事件はありましたが今の生活に満足しています。ややこしい体質になったおかげで騎士と知り合えたのです。運命の摩訶不思議に、今は感謝しています。本田とのトラブルがあったからこそ桃園達との絆を得ることもできました。あんな大変な事件を起こしましたが起訴は免れて、本田はハワイへと旅立っています》

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