だから、あたしは
 もしも、あたしが男の子だったら、騎士は、あたしを愛してくれなかったのか。それとも、そんなこと関係なく好きになってくれていると考えるべきなのか。この問題について考えると答えなんか出てきそうにない。

 あたしと騎士は、一緒に暮らしていくうちに互い何より大切に想うようになっている。

『いいか、どうしても女の子の格好をしたいなら、それは俺の前だけにしろ。おまえは女の顔を他の奴等に見せるなよ。いいな、それがルールだ!』

 困った事に荷騎士の鉄の掟が増えてしまった。

 将来、亭主関白になっちゃうそうだな。でも、騎士は優しい。

『お外でデートしようね。あたし、可愛いお洋服をたくさん着るね。セクシーな下着も着けるよ。あたしの身体が女の子になったら、色々なことをしようね』

 あたしが囁くと、顔を真っ赤にして目を瞬かせる初心なところもある。特殊すぎる事情であるがゆえに、あたし達は表向きは友人同士として接している。

 改めて言うのも何ですが、今回の事件のキーマンの大河内だ。

 彼は、親友でもなく恋人でもないけれど、あたしにとっては特別な存在となっている。

 大河内こそが、「運命」の鍵を握る重要な救世主だったように思うのだ。大河内がいなければ、今の状態にはなっていない。

 騎士が、入院中に打ち明けてくれたのだ。 

『大河内さんの部屋に、おまえが泊まると知った時に血が沸騰していたんだ。いずみを盗られてたまるかって想っていたら頭が煮えたぎって頭の中がはちきれそうになった。気付いたらマンションに向かって走っていた……』

 騎士は、ありったけの気持ちをこめて切なげに囁いていた。

『どうしても、おまえを大河内さんに渡したくないと思った……』 

 いつからか、ハッキリとは分からないけれど、あたしと大河内が親しくしているのを見ていると胸が締め付けられたそうなのだ。

『おまえが大河内さんの家に行くと聞いた時、俺は目の前が真っ黒になったよ。一睡もできなかった。それに、おまえが、本田にさらわれそうになった時は心臓が凍り付いた。絶対に、おまえを守ろうって思ったんだ』

 あの時、大きな四駆の前に両手を広げて守ろうとしてくれた、あの瞬間の騎士の姿を、あたしは一生忘れない

 ちなみに、今でも、大河内は飄々とした態度で接してくれている。大河内は面白い人です。ちょっとやそっとのことでは懲りないところが素敵だ。

『僕は失恋したのかな~ でもねー、僕は、こう見えても死なない人魚姫なんだ……。ていうか、まだ僕が負けた訳じゃないか。いつか、君を僕のものにしてみせる。君達、まだプラトニックだよね。ふふっ。僕は、隙らば、君をかっさらってしまうかもしれないよ』

 冗談とも本気ともつかない際どい台詞を口走っていたりする。

『ふざけるのはやめてください! ほら、行くぞ、いずみ!』

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