だから、あたしは
 騎士は、早速、保健室に入るとすぐにエアコンのスイッチを押した。彼は、プハーとだらしなくベッドに仰向けらなった。パタパタと体操服を捲りあげてあちぃと呻いている。

「やっぱ、屋内に戻ると生き返るな。今年の残暑は厳しいな。いずみ、椅子に座れよ。手当てしてやるよ。おまえ、ひでぇー顔になってるぞ。鼻血が体操服にも飛び散ってるぜ。なぁ、鼻、折れてないよな?」

「折れてないと思うわよ。でも、体操服、汚しちゃってるね。澄子さん、ごめんんなさいって感じだね」

「おまえさぁ、学校では女の子の言葉は封印しろよな」

「分かってる。だけど、前田みたいな教師、訴えてやりたいわ」

「それはやめとけ」

「なんでよ!」

「教育委員会とか、スクールカウンセラーとか、いろんな大人がおまえに聞き取り調査しに来るぞ。被害者側のおまえにも、なんで髪を伸ばしたいのかとか、色々聞いてくる。おまえ、自分の私生活とか暴かれたくないんだよな」

「うっ……」

 そうか。あたし、詮索されるとまずいわ。まぁ、いいわ。前田のことはスルーするわよ。

「なぁ、いずみ、こっち見ろよ」

「嫌よ。馴れ馴れしく話しかけないでよね」

「おまえ、あれから、ずっと俺のこと無視しているだろう。なぁ、頼むよ。もう、あの日のことは許してくれよ」

 ムカデ事件以来、彼は、あたしに謝る機会を探っていたに違いない。心の底から反省しているようだった。困ったようにフーッと短く息を吐きながらも、甲斐甲斐しく、あたしの頬に氷を押し当ててくれている。

 プイと横を向いたけれども、ここまで優しくされると罪悪感で胸が痛くなるわ。

 あらあら、どうしよう。ザワザワと気持ちが揺れている。ああ、そんな切なそうな目で見つめないでよ。

「あ、ありがとう……。前田のアホから救ってくれたことには感謝しているわ……」

 騎士は安心したように口角をキュッと上げている。キヒキビとした動作で冷蔵庫からアイスキャンデーを取り出してきた。

 今日は保健室の先生は出張しているらしいわ。

「保健室の先生は熱中対策の為に冷凍庫にアイスを入れている。熱中症で倒れた生徒は、自由に食ってもいいんだぜ。おまえも、アイス、食うだろ?」

 ベッドに座って悪戯っ子のようにアイスを盗み食いするのって楽しいわ。うふふ、シャリシャリとした触感に舌鼓を打っていると、騎士が、あたしの目を見つめながら頭を下げた。

「いずみ。こないだは俺が悪かった。反省している。だから、もう仲直りしようぜ」

 スーツとあたしの視線が騎士の顔へと吸い寄せられていく。騎士の瞳は優しく澄んでいる。濁りの無い謝罪が胸にストンと響いたのだ。

 よく考えたら、あたしの身体は男の子なんだものね。ムカデに噛まれた時に、さっさと脱げば良かったのよ。本物のニューハーフの人も病院じゃ脱いでいるものね。

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