だから、あたしは
6 衝突
「ただいまー」 

「その髪は、どうしたんだよ! 前田には切りたくないってごねていた癖に、何で、いきなり切ったんだよ?」

「野球部に入ることにしたの! マネージャーになるのよ!」

「やめておけよ! 弓道部や卓球部もマネージャーを欲しがってるんだ。部活動に参加したいなら、もっと平和な部に行けばいい! 調理クラブなんて最高なんだぞ! 性格のいい料理男子が美味い飯を作ってくれるぜ。奴等はバクバクと食べてくれる元気な後輩を求めている」

「えーっ、何でそんなこと言うのよ! あたしは外で活動したいんだよーーー」

「おまえは天真爛漫で無邪気なトラブルメーカーなんだ。絶対に先輩達と揉めるに決まってるじゃないかよ!」
 
 トラブルメーカー? 失礼な! 

「明日、うちのじぃさんが手術するんだよ。母さんは付き添いの為に病院に泊り込む。家のことはおまえにやってもらおうと思っていたんだぜ」

「掃除や炊事を任せようなんて図々しいわよ!」

「うっせぇーな。家事が嫌な人間が野球部のマネージャーなんて務まるのかよ。言っとくけど、皿洗いや料理なんて野球部の雑役に比べたら楽だぜ。おまえが恐怖の儀式に耐えられるとは思わない」

「恐怖の儀式って何なの?」

「度胸試しみたいなもんだよ。母さんに聞かれたくないから、ちょっと待ってくれないか。食後、二人きりになってから話すよ」

 今日のメニューはコロッケと中華スープだった。一時間後に夕飯は食べ終えた。澄子さんは韓流ドラマのビデオ鑑賞に没頭している。という事で、騎士が、背の母親後を気にしながらポソッと語り出した。

「うちの部は最低なんだよ。タチの悪い新入りイジメの伝統行事があるんだ」

 シンクに並んで、食べ終えたお皿やコップの汚れを泡で拭きながら顔をしかめている。

 あまり、言いたくないのね。何やら苦悩の色が滲んでいる。

「先輩の股間を見せられるのさ。ギリギリまで顔を近付けろと言われるんだぞ。そして小便をかけられる」

 ガッシャン。うっかり、あたしはスープの皿をシンクに落としてしまった。

「何なのよ。ひっどーい。馬鹿じゃないの。そんなの意味ないじゃん!」

「そうだよ。先輩のやる事に意味なんてねぇんだよ! 理不尽なことをやらせたいだけだよ。そうやって新入部員達は次々とふるい落とされていったんだよ」

「マネージャーも苛められるの?」

「当たり前だ。勝手にしろよ。泣いてもしらねぇぞ!」

「今時、そんなのおかしいよ」

「そんなの、みんな想ってる。だけど、伝統なんだよ」

 切り捨てるように冷たく告げている。しかし、少し沈黙してから興味深そうに目を細めて顔を寄せた。

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