だから、あたしは
7 オオカミの巣
「初めまして。よろしくお願いしまーす! 転校生の山田いずみです! 昔、野球をやっていました。スコアも付けられまーす!」

「うるせー。どうでもいいから早く仕事を覚えろよ。バーカ」

 副キャプテンの鈴木の剣呑な声にムカッとなった。坊主頭の鈴木はショートで三番バッターなんだって。ああ、こいつは感じ悪いよ。ばーかと、あたしは心の中で呟いてやる。

 そして、他にも陰険な先輩がいるわ。

 オラオラ系のヤンキー顔の本田。ズルイ狐顔の加藤。要するに、この三人が極悪な御三家って感じなんだけど……。他の人は、けっこう普通で安心した。

 夏の大会後に三年生が引退しており、現在、活躍しているスタメンの多くは二年生。センターのイチローさんなどは尊敬すべき人である。

「いずみ! ぼーっとしてないで、ライン、早く引けよ!」

 おおっ、早速騎士からの指示が飛ぶ。雑用ばっかり。ベースを設置したりトンボがけをしたりボールを磨いたり洗濯したり。マッサージをしたり……。

 お茶を作る際には、『やかんって何なの?』と、質問をして騎士に呆れられてしまう。やかんという物体は巨大なケトルのことらしい。あと、数のかぞえ方もあたしには複雑で分からない。あたし、日本人だけど、幼稚園の頃からアメリカスクールにいたからね。

『ボール、三つ持って来い』

 みっつ……。ああ、3個という意味なのね。

 そういうふうに早口で古風な数の言い方をされると、まるで呪文のように聞えてしまう。ここのつとか……。何の数字なんだっけって検索したくなるわ。

 とにかく、初日はバタバタしていた。加藤先輩に脚をマッサージしろと言われたが、うっかり力加減を間違えて叱られてしまった。

「いてぇーな! てめぇ、痛いだろ!」

 はいはい。すみませんね。

 そして、マネージャーの仕事で最も辛いのは洗濯である。洗濯機が壊れているので手洗いをしなければならないというのである。良識のある先輩は寮や自宅で洗うけれど、鈴木は何から何まで騎士に洗わせようとする。あたしはブチ切れていた。

「何なのよ! 何様のつもり! わーーーー。私服のシャツやパンツまであるじゃないのよ!」

 文句をたれていると、騎士が追加の洗濯物を持ってきた。

「鈴木先輩は中学生になってからは親戚の家にいるんだよ。遠慮もあって洗濯物をそんなに頼めないらしいんだ。小学生の頃、鈴木先輩の母親が体調が悪くて入退院繰り返していたらしい。子供の頃は食べるのも困るぐらいに貧しかったそうだよ」

 極貧の鈴木はスポーツ推薦で高校に入った。そして、大学もスポーツ推薦を狙っているというのである。

「何にせよ、こういう洗濯や掃除は誰かがしなくちゃいけないんだよ。おまえ、嫌ならやめろ。そういうのも仕事だ」

「へーえ、騎士ってお人よしなのね」

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