だから、あたしは
「騎士くんとしては、どっちでもいいんだよね~ 騎士くんは小間使いの役に徹していれば怪我をすることもない。賢いよ。おとなしく従順なフリをしながらも要所要所で防御しているからね」

 大河内には悪意がないのに、なぜか、人の神経を逆撫でしてしまう。騎士は、敢えて大河内を無視してあたしに問いかけている。

「い、いずみ! 鈴木さんに何かされたのか!」

「ううん。平気。言葉攻めしてギャフンと言わせてやったわよ!」

 騎士は心の底からホッとしたようだった。改めて、騎士が低い声で告げていく。

「大河内先輩、俺達は先に戻ります。失礼します」

 丁寧に一礼している。そして、さぁ、行くぞとばかりに、あたしの手をグイッと強く引いている。

「いずみ、余計な事をするなって言っただろう! 今回のことでよく分かったよな」

「あたしがマネージャーしないと騎士が雑用をやらされちゃうじゃん!」

 すると、またしても大河内が後ろから話しかけてきたのだ。

「ちょっと待って。山田くん、僕が手助けしてあげるよ。マネージャーになってくれる人物を知っているよ」

「誰ですか?」

「西島先生だよ」

 猫みたいに目を細めると、大河内は謎めいた事を言い出した。

「ただし、代償を支払わなくてはいけないよ。西島先生がマネージャーになる為には条件があるんだ。山田君、いいかな?」

「あのう、条件って何ですか?」

「君には選手として正式に所属してもらうよ。それでもいいのなら、僕からも鈴木に圧力をかけてあげると約束してあげるよ」

 しかし、その提案は騎士としては迷惑な話のようである。

「先輩! こいつに野球なんて無理です! 俺、今のままで構わないんです。新しいマネージャーも必要ありませんから!」

「いいえ。やりまーーーす! 子供の頃に軟式の野球をしていました! こう見えて、ナックルボールも投げられます!」

「それは素晴らしいね。ぜひとも見てみたいな」

 えっーーーー。何これ。あたしは、うっと背筋を反らした。まるで猫同士が挨拶するみたいに、大河内が鼻先を近づけてきた。

 あたしは固まった。ドキッ。心臓が揺れた。心の軸を揺さぶられるようなスリリングな感覚が胸に走る。ひゃーーーー。それは困る。

「君ってさ、もしかして女の子なんじゃないの? 先刻から、何度も、あたしって言ってるよね」

 大河内の形のいい唇が近くなってきた。心臓がバクバクと弾けている。キスする直前みたいな雰囲気になってるよーーー。きゃーーーっ。

「先輩! 何をやっているんですか! この子をからかうのはやめてください!」

 騎士が声を荒らげているというのに、大河内はヘラッと笑ったまま肩をすくめている。というか、先刻から、あたしと言い続けているのに、この人は少しも気にしていない。

 でも、大河内はニッと微笑み尋ねてきた。
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