だから、あたしは
10 揺れる気持ち
騎士家に引っ越してから、早いもので三週間。あたしのボーイズライフは、今ところは順調だ。
昨夜、騎士家の脱衣所の鏡の前に立って確認してみたところ驚いてしまった。
おおっ。やったじゃん。トレーニングの成果が出ている。体脂肪が減って筋肉寮が増えている。女の子に戻るどころか男っぽさに磨きがかかっている。困難な状況でも、あたしが部活を続けられるのは何かと大河内が庇ってくれるおかげ。
少し前に騎士がこんなことを言っていた。
「大河内さんは、相手がどんな球を想定しているのか分かっているみたいなんだよ。勘が良過ぎて薄気味悪い時があるよ。打席に立っていると大河内さんに翻弄されているかのような感覚に陥ってしまうんだよな」
気が付くとバットを振ってしまう。自分が思っていたのとは違うのに手を出してしまうという。
「なんつーか、食虫植物に誘い込まれるハエのような気持ちになるんだよな」
そこに手を出してはいけない……。いけないのに。
「見えない糸で操られているかのようになる。心を掻き乱して自滅へと導く投球術に長けているんだ」
不思議と言えば、数日前にこんな事があった。三日前、いつものようにストレッチしていると、大河内があたしの手を引いて起き上がらせた。あらら、どうしたの?
「移動しようか。ヤバイよ。あの烏と関わりたくない気分なんだよ」
怜悧な面差しの大河内が、スーッと静かに見上げた先に烏が木の枝に止まっていた。
別の場所にシートを敷き直してストレッチを開始すると、先刻まで、あたしがいたところに鈴木がやって来て、バランスボールに背中をつけて仰向けのストレッチに励んだんだけどね。
しばらくすると、鈴木の額めがけて烏の糞が投下されたの。
顔に糞がドバッ。
うぎゃーーと哀れな悲鳴が響いた。
あれは偶然なのだろうか? 何にせよ、鈴木が、慌てふためいて糞を拭いている姿を見るのは愉快だった。とまぁ、そういう事を回想しながら一人で屈伸していると大河内が背後にやって来た。
ストレッチが始まったばかりだというのに動作を止めてから空を見上げて眉を潜めた。
「困ったね。大雨が降りそうだね。雨宿りしようよ。君も雷は怖いよね?」
「いいえ、僕は平気ですよ」
「へーえ、僕は苦手なんだよ~」
はいはい。そうですか。あたしは苦笑しながら部室に向かったわ。
校舎に入った時、ザーッと空が急に暗くなり雷が鳴り響いた。部員達は、ずぶ濡れになりながらロッカールームへと雪崩れ込む。外の様子を見下ろしながら大河内は缶コーヒーで喉を潤している。
ピカッ。今の雷は大きかった。断続的に恐ろしい轟音が響き渡っている。
「天気の急変が分かるなんてすごいですね。大河内さんって。もしかして陰陽師の子孫なんですか」
昨夜、騎士家の脱衣所の鏡の前に立って確認してみたところ驚いてしまった。
おおっ。やったじゃん。トレーニングの成果が出ている。体脂肪が減って筋肉寮が増えている。女の子に戻るどころか男っぽさに磨きがかかっている。困難な状況でも、あたしが部活を続けられるのは何かと大河内が庇ってくれるおかげ。
少し前に騎士がこんなことを言っていた。
「大河内さんは、相手がどんな球を想定しているのか分かっているみたいなんだよ。勘が良過ぎて薄気味悪い時があるよ。打席に立っていると大河内さんに翻弄されているかのような感覚に陥ってしまうんだよな」
気が付くとバットを振ってしまう。自分が思っていたのとは違うのに手を出してしまうという。
「なんつーか、食虫植物に誘い込まれるハエのような気持ちになるんだよな」
そこに手を出してはいけない……。いけないのに。
「見えない糸で操られているかのようになる。心を掻き乱して自滅へと導く投球術に長けているんだ」
不思議と言えば、数日前にこんな事があった。三日前、いつものようにストレッチしていると、大河内があたしの手を引いて起き上がらせた。あらら、どうしたの?
「移動しようか。ヤバイよ。あの烏と関わりたくない気分なんだよ」
怜悧な面差しの大河内が、スーッと静かに見上げた先に烏が木の枝に止まっていた。
別の場所にシートを敷き直してストレッチを開始すると、先刻まで、あたしがいたところに鈴木がやって来て、バランスボールに背中をつけて仰向けのストレッチに励んだんだけどね。
しばらくすると、鈴木の額めがけて烏の糞が投下されたの。
顔に糞がドバッ。
うぎゃーーと哀れな悲鳴が響いた。
あれは偶然なのだろうか? 何にせよ、鈴木が、慌てふためいて糞を拭いている姿を見るのは愉快だった。とまぁ、そういう事を回想しながら一人で屈伸していると大河内が背後にやって来た。
ストレッチが始まったばかりだというのに動作を止めてから空を見上げて眉を潜めた。
「困ったね。大雨が降りそうだね。雨宿りしようよ。君も雷は怖いよね?」
「いいえ、僕は平気ですよ」
「へーえ、僕は苦手なんだよ~」
はいはい。そうですか。あたしは苦笑しながら部室に向かったわ。
校舎に入った時、ザーッと空が急に暗くなり雷が鳴り響いた。部員達は、ずぶ濡れになりながらロッカールームへと雪崩れ込む。外の様子を見下ろしながら大河内は缶コーヒーで喉を潤している。
ピカッ。今の雷は大きかった。断続的に恐ろしい轟音が響き渡っている。
「天気の急変が分かるなんてすごいですね。大河内さんって。もしかして陰陽師の子孫なんですか」