だから、あたしは
「陰陽師ではなく呪禁師の末裔だよ。律令制の頃、宮中の医療を行う役所に呪禁師と呼ばれる人達がいたんだ。僕の先祖は大陸の医療技術を持つ渡来人なんだよ」

「僕のママも中国系なんですよ。中国系のベトナム人です。フランスの血も少し入ってますけどね」

「フランス?」

 目元を細めて不思議そうに聞き返している。

「母方の祖父がフランス人なんです。両親はアメリカで知り合いました。パパはアメリカの大学に入ったんです。ママはベトナム戦争の時に家族を失ったみたいです。だから、母方の親族がいないんです」

「君の髪の毛が茶色いのはフランス人の血が入ってるから?」

「そうなんです。祖父は金髪だったみたいです。そんな事よりも大河内さんのルーツについて詳しく教えて下さい」

 すると、静かに語り出したのだ。

「先祖は民間療法を生業としながら川魚や鰻を売り歩いた。いわゆる、狐憑きや悪霊退治なんかもやっていたらしいよ」

 しかし、戦後になると一変する。闇市や米軍基地での取り引きを足がかりにして財を築いたというのだ。現在、大河内の祖父は大手通販会社を経営している。

「父は呪術の世界に興味などない。しかし、祖父は会社経営の傍ら裏の仕事を続けて、大物政治家とも繋がっている。しかし、祖父は呪術を辞めたがっていた」

「どうしてですか?」

「呪術師への依頼は恐ろしげなものが多かった。人間の恥部や狂気を見せ付けられてきて、心が疲弊しているんだよ」

「恐ろしい依頼……?」

「例えば、こんな感じだよ。旧家の本妻さんが妾の妊娠を知り呪い殺して欲しいと曽祖父に依頼してきたことがあった。彼女は呪術を本気で信じていたのではない。妊婦に毒薬を売りつけるように囁いたんだ。呪術師を暗殺屋か何かと勘違いしていたのさ。曽祖父は断ったんだが、数日後、妾は何者かに首を絞められて亡くなっている。この意味、分かる?」

 やだーーーー。怖っ!

 別の誰かが愛人さんを殺したっていう事なのね。

「幼かった祖父の手を引きながら曽祖父が言ったそうだ。あの奥さんの中には鬼が棲んでいるとね。幼かった祖父は、その事件以後、悪意に敏感になったんだよ。悪意の感度が高いというのが僕等一族の特徴なんだ」

 大河内は寂しげな眼差しで語り続けている。

「人が発する不穏な空気やだならぬ雰囲気が僕にも分かる。相手が考えている事を先読みする。言い当てられた人間はギョッとしている」

「騎士が言ってました。大河内さんには全てを見透かされているような気がして怖いって」

「そうらしいね。こんな話をしたのは君が初めてだよ。僕は先妻の息子なんだ。母は四十歳で僕を産んだが三年前にガンで死んでいる。僕は、父の後妻のことが好きにはなれなくて、高校生になってからは実家を出て一人で暮らしている」

「なぜ、好きになれないのですか?」

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