だから、あたしは
「二十七歳の元地下アイドルの女性を母と呼ぶのはさすがにしんどいよ。父とは疎遠になったが祖父とは定期的に会っている」

「へーえ、そうなんだ……。今日、先輩から聞いたことは誰にも言ってはいけないんんですよね?」

「いや、後妻の話は別にしてもいいよ。一人暮らしをしている事も、みんなが知っている。不思議だね。一族の暗い過去を知っている者は学園にはいないのに、呪術に詳しい奴って噂されているんだからね……」

「大河内さんは呪術をやらないのですか?」

「祖父に教わっているから真似事レベルでいいのなら出来る。何かやってもらいたい事でもあるの? その身体から追い払いたいものがあるのかな?」

 見透かされたような物言いにゾクっとした。まさか、あたしの秘密を嗅ぎ付けているのかしらね。慧眼そのものだわ。

 邪気を祓う呪文を唱えてもらったなら元に戻るのかしら……。

 古代中国の秘伝の呪術って何だか凄い力がありそうな気がするけどね。あたしの場合は怨念や億両は関係ない。科学的な変化なのよ。まぁ、ともかく、あたしは時が過ぎるのを待っている。大河内が側にいる間は鈴木達も手出しが出来ない。

 そう思っていたの・

 しかし、大河内がいなくなると陰険な鈴木達は本性を現すことになるのだ。
 
                ☆

 球を磨く為に用具室兼ロッカールームへと入るとマズイ事に嫌な奴等がいた。鈴木と本田の二人が着替えている。あたしを見るなり、憎らしげに鈴木が汗臭いアンダーシャツを投げ付けてきた。

「おい、洗っておけよ!」

「山田、おまえ、最近、ずっと大河内の側にいるよな? 媚びるのが得意なんだな。お稚児かよ! 大河内と二人で何をしてたんだよ。本当に気持ちわりぃよな」

 この台詞は本田である。お稚児? 意味が分からないが、きっと悪口なのだろう。陰険な鈴木が吼えた。

「大河内がサボるのはいいが、おまえは許さないぜ。いい気になるなよ!」

「いい気になんてなっていません! 言いがかりはやめてよ!」

「はーー。やめてよだとぉ! 女みたいな喋り方をするんじゃねぇよ。キモイんだよ。先輩に対して口ごたえするんじゃねぇよ! つーか、おまえも大河内もどっちも似たもの同士だよ。薄気味わりぃんだよ!」

 本田は陰険で傲慢な野郎である。影では大河内の悪口を言いまくっている。あたしは果敢に言い返してやった。

「キモイと思うなら、大河内さんに直接言えばいいのに」

「……ぐっ」

 本田の目がギラリと歪む。ムカついたのか威嚇するように右腕を振り上げて睨み付けて踏み込んだ。

「てめえ、生意気なこと言ってんじゃねぇよ!」

 こいつに殴られると感じたが、その時、たまたまイチロー先輩がヒョイと顔を覗かせた。

「おい、本田、担任の先生が呼んでるぜ! 進路相談に早く行け」

< 35 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop