だから、あたしは
11 トラブル
それは鈴木と言い争った翌日のことだった。練習後、ジュースを買うつもりでロッカーを開くと財布がない事に気付いたしまったのだ。

 青褪めてうろたえていると、隣で着替えていた菊太郎が小声でこんな事を言った。

「すまんな。いずみに先に言っとくべきだったぜ。ここには泥棒がいるんだよ。ここだけの話だけどな。犯人は先輩だと思うぞ」

「先輩って、具体的に誰?」

「誰にも言うなよ。鈴木さんは副キャプテンだからスペアキーを持っている。俺、一万円をとられたことがある。他にも数人が盗まれている。以後、部員達は、現金は部室に持ち込まないようにしている」

「鈴木が盗ったの? 後輩へのいやがらせなの?」

「いやいや、単に、金が欲しかったんだと思う。前回の盗難騒動の後、鈴木先輩のボロボロのスパイクが新しいものに変わっていた。それで、みんなピンときたんだよ」

「うっそー。鈴木って嫌な奴だよね! みんな、なんで糾弾しないのよ!」

「だってさ、ちゃんとした証拠がないんだぜ。それに部内で盗難事件が起こったとなれば、夏の大会に出られなくなるかもしれない。みんな、泣き寝入りしているのさ」

 という事は、鈴木がマジで怪しいよね。しかし、あたしも泣き寝入りするしかないようなのだ。ああ、悔しいよう!
 
            ☆

 盗難騒動の三日後。野球部のグランドに吉良監督がやって来た。この監督は外部から来ている大学院生なのだ。スッと背筋を伸ばして皆の前に立つと凛とした声で通達した。

「明日、紅白戦を行うぞ」

 若い。監督というよりも先輩という雰囲気だけと威厳がある。監督が、投球フォームを観察した後であたしにもアドバイスをしてくれた。愛想は無いが丁寧な指導をしてくれている。馬鹿な体育教師の前田と大違い。

「山田、画像を見てくれ。ここに注意しろ。腕をこの角度にしならせる際に顔がブレないようにすればコントロールはもっと良くなる」

 フォームを修正するように指示してくれた。リリースポイントをもっと前にするようにするべきなのだ。ふむふむ。納得したわ。

 練習の合間。汗で濡れたシャツを着替えながら菊太郎達が楽しげに言う。

「いずみ! 吉良監督がおまえに興味を示していたぜ。中継ぎで使ってもらえるかもしれないぞ」

 明日の紅白戦の結果次第ではレギュラー編成も変わる。しかし、どう、頑張っても、あたしの場合はレギュラーなんて無理だと分かっている。

「練習試合に出られるだけ嬉しいよ! 試合なんて小学生の授業以来だよ」

 とにかく、騎士に活躍してもらいたい。鈴木からレギューラーの座を奪ってしまって欲しいのだ。

 あたしは、西島先生を手伝いコップをせっせと洗った。ヤカンを片手に校舎とグラウンドを往復していると鈴木が来たのだ。鈴木は意味ありげに下種な表情で笑っている。

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