だから、あたしは
「何となく……、悪い予感がするからね」

 ちょっと悲しそうに視線を下方に落とし込みながら告げていく。

「きっと何かが壊れる。それが何なのかは分からないけどね……」

 そんな抽象的な言葉を言われても困るわ。あたしの場合、普通に投げていては話にならないもの。

 どこかでナックルを投げることになる。

 ほら、やっぱり、あたしに投げるように監督の指示が出たわよ。もうこうったら投げるしかないよね。

 あっ、やばい。一打席目、菊太郎にツーベースヒットを打たれてしまった。

 二打席目、イチロー先輩。警戒して投げたせいでフォアボールになってしまった。ノーアウトの一塁。由々しき問題だ。次の打者は鈴木だった。肩をまわしながら打席に入っている。あからさまに馬鹿にしたような眼で睨みつけている。鈴木と同じ白組の本田達や加藤が思いっきり野次ってくる。

「おーい、鈴木! オカマに負けんなよ!」

「そうだぜ! あんなトロイ球なら誰でも打てるぜ!」

 悲しいけれど本当のことだ。あたしは中学生みたいな球しか投げられない。実力の差がハッキリしている。でも、負けたくない。どうしても抑えてやりたい。キャッチャーは外角低めのストレートを要求。でも、そんなことしたら鈴木に打たれてしまう。キャッチャーを無視して得意な球種を投げ込んでいった。しかし、投げた瞬間、ヤバイと思った。

 ナックルを投げようとしていたのに……! 力んで投げた球は指先からフッとすっぽ抜けて、予想外の方向へと飛んでいる。

「危ない!」

 みんなが一斉に立ち上がり叫んでいた。痛ましい光景だった。グシャッという感覚で硬球が直撃している。

「うっ……」

 鈴木は鼻を押さえて倒れこんでいる。やばい。危険球を投げてしまった……。鈴木の頭部に球をぶつけてしまっている。鈴木が尻餅をついた弾みでヘルメットが地面に落ちた。ドクドクと鼻血が溢れている。鈴木は横向きに倒れたまま顔色を失っている。

 空気がザッと揺れて、皆、一斉に駆け寄っている。あたしはマウンドの上で膝をついて放心していた。ああ、どうしよう。魂が抜け落ちたように呆然としてしまう。大河内の予言が現実のものとなってしまっている。

 どうしよう! どうしよう! 泣いてしまいそうになるけれども、そんな情けない状態のあたしの肩を掴む人がいた。そして、しっかりと、あたしの背を揺さぶっている。

「いずみ! 泣くな! これは事故だ。よくある事だ」

「騎士?」

 あたしの脇を抱えて力強く引っ張り上げて厳しい言葉を告げている。

「試合をしていると、時にはデートボールを投げて加害者になることもあるけれと、逆に、ピッチャー返しで被害者になることもあるんだぞ。そういうのを覚悟して投げろ」

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