だから、あたしは
他の子達もアクシデントに対して驚いてはいるが慣れているようである。医療班と呼ばれる三年生の生徒がいて、こういう事故の時こそ彼等の腕の見せ所なのだ。
脳震盪を起こしていたようだが、名前を呼ばれるとすぐに鈴木は目を開けた。
「鈴木? この指は何本に見える? 答えろ」
幾つかの質問をしながら、脈を測っていた。みんな、テキパキしている。
「意識レベルに問題はありませんね。介助なしでも鈴木は歩けます。念のために担架で運びます」
鈴木の鼻血は止まりそうになかった。もしかしたら、鼻を折っているのかもしれない。鈴木が退出するとすぐに試合は再開したのだ。
動揺したあたしは投手として使い物にならないが、やっとスリーアウトに辿り付きホッとなる。五回裏までは二対一で赤組が優勢だったが、あたしが投げた事で三点も取られてしまっている。
結局、赤組は惨敗していたのである。試合後も、あたしはガッツリとうなだれていた。
色々と情けなかった。ああ、自分は何て弱い人間なのだろうかとへこんだのだ。
☆
時刻は三時四十分。試合後も練習は続いていた。
菊太郎達はティーバッティングに没頭している。皆、鈴木のことなど気にしていない。騎士がこちらに来た。メソメソと泣いてばかりのあたしにトンボを差し出しながら言う。
「目が真っ赤だな。鼻も赤いぞ。おまえの泣き面を鈴木さんに見せてやりたいな」
からかうような声だ、こうやって騎士と話すことで少しは落ち着いてきた。
「あたし、鈴木に怪我させちゃったね。あたし、お見舞いに行かなくちゃいけないね」
病院に付き添った人の話によると鼻の骨が折れているというのである。
「頭部に関しては何の異常はなかった。一応、念のためにCTを撮るが、それでも異常がなければ退院することになる。別に、見舞いに行くほどでもないんじゃねぇの?」
「そんな訳にはいかないわ!」
騎士が、どんよりとした鉛色の空を見上げている。こういう時も落ち着いているところが騎士のいいところ。
「おまえのせいじゃないさ。鈴木先輩は朝から変だったんだよ。いつもはシャープなバッティングをするのにノーヒットだったしな、それに、エラーもある。目が見えていなかったんじゃないのかな」
「えっ、鈴木さんって目が悪いの?」
「近眼だよ。普段はコンタクトをしているんだけどね……。前にも、鈴木さんが調子悪いことがあった。あの時、コンタクトが外れていた。もしかして……」
何か心当たりがあるようだったが、そこで会話は途切れていた。
何となく灰色の雲が広がっている事には気付いていたのだが、ついに東の空が光った。不機嫌な猫の喉のように鉛色の雲が不機嫌そうに鳴いている。雷が近く付いている。
「撤収しろーーーー」
脳震盪を起こしていたようだが、名前を呼ばれるとすぐに鈴木は目を開けた。
「鈴木? この指は何本に見える? 答えろ」
幾つかの質問をしながら、脈を測っていた。みんな、テキパキしている。
「意識レベルに問題はありませんね。介助なしでも鈴木は歩けます。念のために担架で運びます」
鈴木の鼻血は止まりそうになかった。もしかしたら、鼻を折っているのかもしれない。鈴木が退出するとすぐに試合は再開したのだ。
動揺したあたしは投手として使い物にならないが、やっとスリーアウトに辿り付きホッとなる。五回裏までは二対一で赤組が優勢だったが、あたしが投げた事で三点も取られてしまっている。
結局、赤組は惨敗していたのである。試合後も、あたしはガッツリとうなだれていた。
色々と情けなかった。ああ、自分は何て弱い人間なのだろうかとへこんだのだ。
☆
時刻は三時四十分。試合後も練習は続いていた。
菊太郎達はティーバッティングに没頭している。皆、鈴木のことなど気にしていない。騎士がこちらに来た。メソメソと泣いてばかりのあたしにトンボを差し出しながら言う。
「目が真っ赤だな。鼻も赤いぞ。おまえの泣き面を鈴木さんに見せてやりたいな」
からかうような声だ、こうやって騎士と話すことで少しは落ち着いてきた。
「あたし、鈴木に怪我させちゃったね。あたし、お見舞いに行かなくちゃいけないね」
病院に付き添った人の話によると鼻の骨が折れているというのである。
「頭部に関しては何の異常はなかった。一応、念のためにCTを撮るが、それでも異常がなければ退院することになる。別に、見舞いに行くほどでもないんじゃねぇの?」
「そんな訳にはいかないわ!」
騎士が、どんよりとした鉛色の空を見上げている。こういう時も落ち着いているところが騎士のいいところ。
「おまえのせいじゃないさ。鈴木先輩は朝から変だったんだよ。いつもはシャープなバッティングをするのにノーヒットだったしな、それに、エラーもある。目が見えていなかったんじゃないのかな」
「えっ、鈴木さんって目が悪いの?」
「近眼だよ。普段はコンタクトをしているんだけどね……。前にも、鈴木さんが調子悪いことがあった。あの時、コンタクトが外れていた。もしかして……」
何か心当たりがあるようだったが、そこで会話は途切れていた。
何となく灰色の雲が広がっている事には気付いていたのだが、ついに東の空が光った。不機嫌な猫の喉のように鉛色の雲が不機嫌そうに鳴いている。雷が近く付いている。
「撤収しろーーーー」