だから、あたしは
 言い捨てて去ろうとしていると、背後から肩を押さえつけられて動けなくなった。下衆な声が耳元に吹きかかる。

「ケッ、下手な芝居してんじゃねぇよ。ようよう、つかまえたぜ」

 大声をあげようとするが、そうはさせないと加藤があたしの口を塞いでいる。

「本田。見た目は女なんだぜ。ここで騒がれるとヤバイぞ!」

「むぐっ! ふくぐ……」

 加藤が、背後から強引に羽交い絞めしている。それは見事な連携プレイだった。本田があたしのみぞおちを拳で殴ったのだ。

「俺の家に監禁しようぜ。加藤、そっちの肩を持てよ。ほらほほら、急げ!」

 本田は崩れかけたあたし肩を支えながら低く告げている。強引に連れ去るつもりらしい。クラクラする。呼吸が苦しい。人の顔も歪んで揺れていて、だんたん意識が遠ざかっていく。

 路地の狭間に誰かいる。こっちを見ている。桃園の怯えきった顔がチラリと横切ったような気がしたけれどもよく分からない。ヤバイ。怖いのだ。怖くて堪らない。誰にも伝えられないことが悲しい……。 
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