だから、あたしは
15 いずみ、襲われる
そこは二階建てのコーポの一室なんだけど、階段を上がった角の部屋に入った途端に漢方薬のような妙な臭いに気付いた。

「重たかったな。本田、どーすんだよ? 女を連れ込むなら分かるけどさ、こいつは、オカマなんだぜ」

「桃園と同じように痛めつけてやればいいさ」

 あたしはゾッとなる。フローリングに横たわったまま二人を見上げると加藤はスマホを手にしていたのだ。本田が非情な顔つきのまま言う。

「おーい、加藤、ちゃんと撮れよ」

「でもさぁ、前に桃園をいびり倒した時、大河内が変なことを言ったんだぜ。そのせいなのかわかんねぇけど親父が事故っちまったんだぞ。きっと、大河内に呪いをかけられるぞ」

「うっせぇぞ。ふざけんな。てめぇの親父は飲酒運転で川に落ちたんだよ。呪いもクソもあるかよ。大河内は薄気味わりぃが、そんな力はねぇよ」

「それなら、なんで、おまえ、大河内に遠慮してんだよ?」

「あいつの親父がうちの親父の雇い主だからだよ! 胸糞わりぃぜ。何でも分かっているような顔をしてやがって。だからこそ、大河内の鼻あかしてやりてぇのさ。何が予言だ! 笑わせるなっつーの」

 あたしは顔をビキッと引き攣らせていた。
 
「あ、あなた達、前にもこんなことをしたの!」

「文句あるかよ! おまえも桃園も人間のクズなんだよ! 男に相手にされようと必死になって生きてやがる! 俺が相手にしてやるよ!」

 本田が合図すると加藤が羽交い絞めにした。本田が、スカートの奥をまさぐって下着をはがしている。

「ちょ、ちょっと! やだっ!」

 本田があたしの頭を押さえつけている。暴れた弾みでウィッグが前方に大きくズレてしまった。

「ぷはっ! なんだよー。カツラがとれたぜ!。生意気にも胸があるのかよ。さーてと何カップだ?」

 装着しているブラジャーの中にはジェル状のパットが入っているのだ。

「ばーか。こんなもん入れて空しくねぇのかよ! ほんと、キモイぜ。オカマの癖に偉そうにしやがってよう!」

 本田は、前開きのワンピースのボタンを引き千切ってせせら笑ったのだ。

「やめて! やめっ! いやーーーーーーーーーっ!」

「声は女だよな! そうやってわめいたところで誰も助けに来ねぇよ!」

 ブラジャーも剥がされてしまう。本田の顔には狂気が充満していた。油性のペンを握り、あたしの身体に落書きをしている。

 平たい胸にオカマの馬鹿と書いているうちに、凶暴性が噴出して興奮してきたらしい。ギラギラと目が濁り、あたしをねめつける表情が澱みを増している。

「おまえ、財布に女装写真を入れてたよな。マジ、キモイぜ。裸になれば男に逆戻りだよな」

 写真?

「やっぱり、財布を盗んだのは、あなたね!」

「まぁー。みんなは鈴木が犯人だと思ってるようだな。真相なんて誰にも分かるもんか」

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