だから、あたしは
16 特別な夜
あたし達は、急ぎ足で帰宅しようとしていた。人混みでごったがえしている歓楽街を通り抜けていった。

 駅ホームを直進しながらも、あたしの足取りはフラフラしていた。やばいな。胸の鈍痛が酷くなっている。先刻は興奮していたから痛みを忘れていたけど、今は、呼吸するのも辛いのよ。少し休もうよ。そう言おうとした時、桃園が告げた。

「いずみ、早く来い。電車、出ちまうぞ」

 階段を上がり、電車に乗るとすぐに扉が閉まった。

あたしは電車の中では歯を喰いしばったまま目を閉じる。痛みでクラクラする。二十分後、村の駅に着くと今度はタクシーに乗ったのだが……。もう、この頃にになると身体は、かなり疲弊していた。

「僕は本田に復讐するつもりなんだ」

 古い車体の個人タクシーの後部座席にもたれながら桃園が誰に言うともなく呟いた。

「いずみや他の子への暴行シーンの証拠を握っていれば勝てるさ。大河内さんが言ってたんだ。いつか、僕は、あいつに復讐する日が来るって」

 あたし達は手持ちのお金が無い事に気付いたので途中でタクシーを降りた。

 騎士家の竹林を横切って歩く事にした。桃園は最後まで送り届けるつもりでいる。あたしは前から不思議に思うことを尋ねていく事にする。

「ねぇ、桃園は、大河内さんと昔から仲がいいの?」

「仲がいいというか、怪我をした菊ちゃんを救うにはどうしたらいいのか泣いていたら向こうから声をかけてきたんだよ。親しく話したのはそれが初めてさ。僕の心に寄り添うように笑ったんだ。大切にしているものを差し出せば菊ちゃんを救えるって言ってくれた」

「代償がどうのこうのっていうのは、そのことなのね?」

「その時は迷ったよ。大切なものを救えば同じぐらい大切なものを失うことになる。危険で残酷な術なんだと言われたからね。すごく丁寧に説明してくれたんだ」

「というと?」

「こんな事があったそうなんだ。昔、地主さんが頭を打って死にかけた幼い息子を救って欲しいと大河内さんの祖父に頼みに来たんだってさ。呪術によって息子さんは意識を取り戻したんだ。だけど、家に帰ってみると三歳の娘が沼に落ちて死んでいたんだってさ。つまり、それが代償だったんだ」

 大河内は丁寧に説明してから桃園に問いかけたという。

『命は命で贖う。菊太郎金の場合は怪我だね。菊太郎くんの痛みを誰かが背負うことになるんだよ。君は、果たして耐えられるのかな』

 詰まり、後々、恐ろしい展開になるってことを桃園も分かっていたのね。

「それを聞いてビヒビッたけどさ、何を失ってもいい覚悟で依頼したんだよ」

「どうして、桃園はそんなに菊太郎のことが好きなの?」

「僕、生意気だとか偉そうにしているとか言われて嫌われていたんだ。普通に話しているつもりなのに、みんな、僕を敬遠するんだ」

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