だから、あたしは
「大河内さんは、あんたが来てからよく笑うようになったよ。その反面、大河内さんは悩んでいる。あんたは何も分かってない!」

 ああ、いつものヒステリー口調が始まっちゃったよ。耳がキンキンするわ。

「最近は騎士の様子も変なんだ! あんたは、何者なんだよ! もしかして、宇宙人なのかよ? みんな、あんたに翻弄されているんだぞ。こ、この僕でさえ……」

 言いかけて桃園が口ごもった。あれれ、誰かが駆けてくる。舗装されていない細い道を駆け下りている人は騎士だった。

「いずみ! 何、やってたんだ! 遅くなるなら電話しろ!」

 至近距離で対面すると、エプロン姿の騎士がオタマをポロッと落として叫んだのだ。

「いずみ。どうした!」

 桃園が強い口調で言う。

「犯人は本田だよ。あいつの部屋で監禁されてリンチされたんだ。病院で診てもらった方がいいよ。何があったのかは本人から聞いてよね」

 前から思っていたんだけれども騎士に対して素っ気無いような気がする。仲が悪いというよりも、互いにサッパリしていると言うべきなのかな。

「そうか。いずみを送ってくれてありがとう」

 桃園がいなくなると、騎士は目を凝らして、あたしの全身を見下ろしながら質問してきた。

「本田に何をされた?」

「火傷させられたの……。それに殴られたのよ。いたたっ……。胸と背中が痛いし肩も痛いよ。骨が折れていたらどうしよう」

 ずっと我慢していたけども騎士の顔を見ると涙が溢れてきたのである。

「俺が運んでやるよ」

 あたしの身体をそっと抱きかかえている。お姫様のように運ばれているのだ。

 細身なのに力があるのね。あたしを抱えたまま母屋の二階を上がりきっている。

 フアリと、騎士の部屋のベッドに寝かされていた。ブルーを基調としたシーツは洗ったばかりなのね、柔軟剤の良い香りが漂っている。

「今晩はここで寝ろよ」

 十畳くらい部屋。サイドボードには帆船の模型が飾られている。本棚には、少年漫画と歴史関連の新書が並べられていた。

「氷を用意してくる。ひどい顔だ。顔を拭くタオルも持ってくるよ」

「いいの? 血がついちゃう。お布団が汚れちゃうよ。あたしは埃だらけなんだよ」

 騎士は潔癖症なのだ。入浴してパジャマに着替えた後でなければ、決して布団に入らない。スクールバックもファフリーズをかけているような人なのに……。

「そんなの構わねぇよ!」

 まるで、西洋の可憐なお姫様を見守るような真摯な眼差しだった。ああ、その優しい声が胸にツンと染み渡る。

「聞いて、騎士。あたしの財布を盗んでいたのは鈴木さんじゃないの。本田の仕業よ」

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