だから、あたしは
これでめでたしと言いたいところなのだが……。残念なことに、そうはいかない。あたしには別の試練が待ち受けていたのだった。
☆
「いずみ! 今度の文化祭の衣装を借りてきたぜ!」
昼休みに御飯を食べていると、菊太郎が紙袋をこちらにつき出してきたのだ。楽しげに、ニカッと得意げに笑っている。
「うちの母ちゃんが若い頃に着ていたものだ。父ちゃんとの初デートで着たワンピース、こっちが姉ちゃんのウエディングドレス。中学生の妹の制服もあるぞ。どれがいい?」
「そりゃもちろん……」
ウエディングドレスは自分の結婚式で着たいと言いかけて、うっかり口ごもってしまった。うわー、これはまずいなぁ。
ここでのあたしは男の子なんだよね。男として生きなくちゃいけないわ。ということで、少し煩わしげに眉をしかめて嫌がってみせた。
「ドレスなんか嫌だよ。僕は男の子なんだぜ」
すると、お弁当を食べていたクラスメイト達が口々に呟いた。
「おいおい、そんなことを言うなよ。いずみ、頑張ってくれよ。文化祭で優勝したら食堂のオムライスの食券をクラス全員がもらえるんだぜ! おまえ、みんなの為にも優勝しろよな! なぁ、いずみ、いいから、ちょっとだけ着てみせてくれよ。サイズとかチェックしといた方がいいぜ」
「そうだよ。なぁ、早く女装してみろよ。俺らに見せてくれよ」
「あ……、うん」
菊太郎が差し出したワンピースは白地に水玉模様という古臭くて清楚なものだった。
「分かったよ……。それじゃ、さっそく着てみるね」
その場で制服を脱ごうとシャツのボタンに手をかけると騎士がガタッと立ち上がった。
「いずみ! ここで服を脱ぐなよ。行儀が悪いだろ」
人前で裸になってはいけないという掟が学校にあるのかしら? いやいや、そんなのはないよね? 上半身は見せてもいいよね。
「はぁー、別にいいじゃねぇかよ。何をお堅いことを言ってんだよ。つか、体育の前、みんな着替えてるぞ」
「俺達、ぜーんぜん気にしないぜ。うわっ、菊太郎、てめぇ、屁、こいただろう! くっせぇな!」
「屁ぐらいいいだろう。もう一発、プーするぞ。フップーだぞぉ」
皆の話題は菊太郎の屁の臭さに向いている。クラス全員が寛いでいた。それなのに騎士だけはピリピリとしている。
それでも、あたしは久しぶりに話しかけてくれたことが嬉しいかった。騎士の忠告に従ってトイレの個室で着替えることにした。水で髪を濡らして少し女の子っぽい雰囲気に整えていく。
「じゃーん! 皆さん、できましたよぉーーー!」
教室に戻って披露するとクラスメイトが楽しげにどよめいた。
「いいぞーーーーーーーーー! 思った以上にいいぞぉーーー!」
「抱けるぜ。いずみなら抱けるかもしれない」