だから、あたしは
 特に菊太郎のテンションが高かった。

「なんて理想的な貧乳だ! 可憐だな! くーっ、こうでなくっちゃ。お姉さんに瓜二つだよな。ああ、頬にキスしてもいいか?」

 相変わらず菊太郎は無邪気だった。あたしの胸に頬をうずめてゴロニャーンと和んでいる。

「聞いたぞ。おまえ、自転車で転んだんだってな。運が悪かったな。もう平気なのか?」 

「えっ、うん……。てへへ。くすぐったいよ」

 本田にやられたとは言えないので転んで顔を打って休んだことにしている。

「あっ、そうだ。ブラジャーも付けてみないか。母ちゃんのお古だ」

 菊太郎の母は巨乳なのでサイズ的に無理。

「心配すんな。ブラジャーに詰め物をすればいいんだよ」

 そう言われて困った顔をしていると、またしても騎士が割り込んできた。

「菊太郎。セクハラするな。いずみが嫌がってるだろう。やめろ。さっさと下着をしまえよ」

 全員がキョトンと不思議そうに騎士を見つめ返したまま目を丸めている。

「おい、騎士、おまえ、妙だよな? 何をカリカリしてんだよーー」

 菊太郎が言うと、うろたえたように目を逸らしていた。グッと下唇を噛み締めているのである。心配そうな菊太郎に対してポツリと呟いた。

「ごめん……。菊太郎。風邪気味っぽいから保健室に行くよ」

 そう告げてから力なく教室を出て行くものだから、あたしは追いかけずにいられない。

 騎士は前だけを睨みつけている。ズンズンと廊下を大股で歩いている。

「騎士! ねぇ、騎士ってば!」

 女装して歩いていたせいで皆がこちらを見ている。コソコソと囁き合う声が聞こえる。

「おおっ、あれが優勝候補の山田いずみなのか? マジ、可愛いな」

「女と間違えそうなくらいに綺麗だな。ヒューヒュー、いっずみちゃーん。こっち向いてくれよ」

 一緒に行こうとしていたのに騎士が冷たく言い放った。

「ついて来るなよ! 頼むから……、そんな格好でウロウロしないでくれよ」

 苦しそうにそう告げる騎士に、あたしは戸惑った。

 もしかして、騎士は、あたしのこと好きなのかな?

 もし、そうなら死ぬほど嬉しいんだけど。

 でも、単に、あたしの取り扱いに戸惑っているだけなのかしら。 

 仕方なく、あたしは教室に戻った。騎士の様子がおかしいことにクラスの男の子達も首をかしけている。
< 75 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop