だから、あたしは
「でも、何かの弾みで気が変わることもあるかもしれないよね!」

「可哀相なアイリもそう思っているみたいだね。だから、しつこく愛の歌を作るのさ。逢いたい気持ちを込めた歌でもあり哀の歌でもある。愛の歌っていう言葉、アイリのブログのタイトルにもなっているよ」

 そう言って、大河内はスマホを取り出して見せてくれた。

「これが従妹のアイリだ。ステージ上ではこんな感じで弾けているよ」

「うわっ! 胸、デカ!」

 わざと強調するような衣装を着ている。

「アニメのキャラのコスプレだよ。ステージでは派手な格好をしてエネルギーを放出しているよ。この衣装は無駄にエロイよね」

 カラコンを入れて顔も修正しているので素顔は謎だが、自己顕示欲が強そうな雰囲気だった。

「僕は君の幸せを願っている。でも、君の幸せは僕の不幸と直結しているんだ。最初から分かっている。君は、僕を愛してはいない。でも、僕は君を必要としている。本当は、僕は君を連れてライブハウスに行きたくないんだ」

 大河内は眼鏡を外して溜め息をついているのである。

「どうやら、僕は失恋する運命なんだよね~」

 物憂げに微笑む大河内の背後にレトロな大正モダン風の調度品が揃っていた。木のクラッシックな窓枠が大河内の古風な美貌を際立たせているかのように見える。

「予感がするんだ。騎士くんとアイリと君が出会ったなら運命の輪が回る。僕たちの未来を変える何かが起こるに違いない。君に危険な出来事が降りかかる予感がする。だから、僕としては行きたくない」

「えっ、騎士もライブハウスに行くの!」

「アイリのブログを見たら誰でも分かるさ。ここを見てごらんよ。好きな人にライブ会場で告白しまーすって、楽しげにツイーとしているよ。あの子には秘密は無いんだよねぇ」
 
 あ、ほんとだ。

『やったー。ついに、あたしのナイトが振り向いてくれました☆ よーし、この調子でガンガン進むぞ☆』

 自分の心模様を常に外にポンポと発信しているのね。

「へーえ、素直な人なんだね」 

 騎士のことをナイトと呼んでいるのかぁ……。羨ましいよ。こんなふうにまっすぐに告白できるんだね。こんなの、あたしには無理。

 このまま帰ろうかしら。それとも、アイリさんのライブに行こうかしら。

 怖いよ。なんか、すごく怖い。騎士もアイリさんのライブに行くのよね。騎士は、アイリさんのこと、好きなのかな。

「以前、鈴木が打席に立つ前、あなたは言いましたよね。ナックルを投げるなって。あの時、僕が、あなたの言う事を聞いていたなら事故は起こらなかったの?」

「多分ね」

「今夜、あたしがライブハウスに行くと何が起きてしまうのですね」

 掠れ気味の声で囁きながら曖昧な笑みを浮かべている。

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