だから、あたしは
「それが運命なら受け入れるしかないね。どうする? ライブハウスに行くのを辞めて僕の家に来る? 僕としてはライブに行かせたくないな」

 もしかして、あたし、誘われているのかしら? まずい! このままだと濃密なボーイズラブな世界に突入してしまうかもしれない。

「駄目ですよ! そ、そういう倒錯的な世界に興味はありません!」

「倒錯?」

 あたしの反応を楽しむように、彼はおかしそうに眉を上げている。あたしは身を乗り出して説明していく。

「僕みたいな者を好きという感情を持つことは、とっても不幸なことだと思います」

 あたしは……。どちらでもない中途半端で奇異な存在なんですよ。いや、問題はそこではないような気もするわ。

「あの、正直に言います。僕の心の中には騎士がいるんです。あなたに複雑な痛みを与えることになります! だから、お断りします! す、すみません!」

「はー、驚いたな。君は直球派なんだね」

 あたしを包み込むかのようにフアリと微笑みなから言う。

「騎士君も、心に巣食う感情をどう処理すればいいのか分からなくなっている。だから、単純明快なアイリの元に向かうんだろうね」

「えっ?」

「彼は、もしかしたら自分がゲイなんじゃないかと悩んでいる。葛藤から開放されたくてもがき続けている。果たして、彼はゲイなのだろうか?」

「騎士はゲイじゃありませんよ!。女の人が好きなんです。騎士はオッパイのデカイ女の子がいいって言っていたもの!」

 すると、大河内は、カウンセラーのように静かに頷いた。

「彼は悩んでいる。自分でもどうしたらいいのか分からなくなっているようだね。ひどく孤独なんだ」

 孤独? 大きく頷きながら、あたしの頭をスルリと優しい手で撫でている。

「いずれ、運命の輪が回る」

 運命の輪? そもそも、運命って何なのだろう。大河内の瞳には何が視えているのだろう。

 思いがけない人が目の前に現れたのだ。突然、キンという声が響いた。

「山田いずみ! あんた、そんなところで何をやってんのさ!」

「え、え、えーーーーーーーっ!」

 桃園だった。窓の外からバンバンと窓枠を叩いている。声がハッキリと聞こえる。

「いずみーーー。もうすぐ、クソ女のライブが始まるよ!」

 クソ女?

「あのクソ女、嬉しそうにツイートしやがった! みんなの前で告白したら、騎士もノーとは言えない。そんなこと、させてたまるか!」

「どうして、アイリさんのことをクソ女って言うの?」

「僕の猫を川に投げたのはあいつなんだよ」

 ハァハァ。肩を揺らすようにして怒涛の勢いでまくしたてている。

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