だから、あたしは
「ポコタンを川に投げ込むような怖い女なんだぞ! おまえは悪魔だ!」

「あ、あれは猫が顔を引っ掻いたのよ! 抱っこしようとしたのに嫌がって逃げたの! 欄干から勝手に落っこちたのよ!」

「そんなの信じないぞ!」

「あんたが信じようが信じまいが本当よ! 何なのよ! あんたのせいで、あたし、猫を殺そうとしたと思われて嫌われたのよ。あんたのせいで苦しんだんだからね! あんたこそ悪魔よ! 童顔の悪魔よ!」

 アイリさんはあまり美人ではなかった。目と目が離れているので蛙に似ている。

 ファニィフェイスの彼女は、ウルッとした目で呟いている。

「でも、騎士だけは信じてくれたもん! あたしはそこまで悪い子じゃないって信じてくれたんだもん!」

 そして、不貞腐れたように唇を尖らせている。

「そりゃ、桃園ことは嫌いだったわよ。あたしは自分より可愛い男の子を見たらムカつくのよ! 女みたいな顔の男なんて大嫌いよ! 桃園なんて死ねばいいのに!」

「うわっ、やっぱりこいつは性格、悪いよ!」

「何よ! オカマのくせに偉そうにしないでよ!」

「違う! 僕はオカマじゃない! おまえこそ、ぶりっ子ブスだ!」

「言っとくけど、川に投げ込むなら桃園本人を投げるわよ!」

「おやおや、相変わらず激しいなぁ~ そろそろいいかな」

 大河内が例の口調で揶揄するように呟いている。

「で、アイリ、君は、これからどうするの? 親には、友達の家に泊まるって言ってあるんでしょう?」

「う、うるさいわね! また、そうやって何でもお見通しみたいな顔して何なのよ! お兄様は不気味なのよ。ほーんと、薄気味悪いったらありゃしない!」

 この子は大河内に対しても噛み付いている。うわ、随分と感情の起伏の激しい女の子なんだな。

「あたしは、ただ、ナイトと一緒に過ごしたいだけなのよ! 婚約者なのよ」

「元婚約者だよね。騎士君がはアイリとは違うタイプの子を好きになっているかもしない。いい加減、諦めたらどうなのかな~」

「騎士に好きな子がいるななら勝負を挑むわよ! そいつのことを殺してやる」

 両足で踏ん張ってそう呟くと、アイリさんはジロリとねめつけた。

「ていうか、この子は誰なのよ! 誰なのよ」

「前に話しただろう。居候の山田いずみだよ」

 やはり、騎士は、あたしと目を合わせようとしないのね、哀しいわ。

「アイリ。往来で大声を出したら近所に迷惑だ。ほら、早く家に入れよ」

 ここは、閑静な高級住宅街なのである。鉄の洒落たデザインの門扉を押し開いてアイリさんの背中を押している。騎士は玄関には入らずに去ろうとしていたのだが、アイリさんが焦れたように叫んだ。

「暗いのは嫌なのよ! ナイトも一緒に家に入ってよ。部屋の中に泥棒や痴漢がいるかもしんないじゃないのよ!」

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