だから、あたしは
23 お泊り
アイリさんは騎士のことが好きなのだ。真っ直ぐに自分の感情をぶつけるタイプなのね。羨ましい。あたしは足踏みしちゃうよ。何なのかなぁ。胸に広がる敗北感は。このモヤモヤは黒煙に似ている……。

 あたしは傷付くのが怖いのよ。きっと、あたしって臆病なのね。溜め息を吐き出しながら落ち込むあたしに大河内が囁いている。

「僕のマンションはバスで十五分程の所にある。こっちだよ。ねぇ、山田くん、どうせなら、うちに泊まれば?」

「だけど……」

 あたしは着替えなど持っていない。その言葉を発する前に察して告げた。

「下着なら新しいものがあるよ。僕ので良ければパジャマも貸してあげる。美味しい夕食も作るよ。僕は、こう見えてとっても怖がりなんだ。夜は怖いんだよ。何しろ、鬼や霊気が僕には見えちゃう体質だからね」

「怖い?」

 うっそー。この人が暗闇を怖がるなんて信じられないな。でも、怨霊とかそういうのが本当に見えるとしたら、確かに落ち着かないよね。

 今も、何か見えていたりするのかしらね。

 あたしが、ぼんやりと見つめていると桃園が大声で言った。

「大河内先輩! 山田のことをよろしくお願いします! 騎士は、あのクソ女といる方が良いそうですから帰りますね! あーあ、趣味、わりぃーよな! 騎士、見損なったよ」

 桃園が屋内にいる騎士に聞こえるように叫んでいるのだ。

「じゃ、僕も帰ろうっと! 最終のバスに乗り遅れちゃうもんねーーー!」

 その瞬間、アイリさんの家の二階の部屋の電灯が消えた。あたしは敗北感を感じて目を閉じていく。今夜、あの二人は結ばれるのだろうか?

「大河内さん、あたし達も帰りましょう……。お願いがあります。あなたの部屋に泊まらせてください」

「ああ、分かったよ。もちろん、大歓迎だよ」

 大河内が断らないと知っていた。あたしは一人になりたくなかった。暗い気持ちで路地を歩き続けていく。何度目かの角を曲がると道路沿いに建つマンションが見えてきた。

「……」

 流される。思いがけない力によって流されていく。自分がどうしたいのか分からない。櫂を失った船のように流れに身を任せるしかない。

 あーあ、あたし、何をやってんのかな? 

 騎士のことを考えると頭の中が破裂しそうになる。だから、大河内の優しさへと逃げ込もうとしている。こういうのってズルイ気がする。色々と葛藤してしまう。

 でも、大河内に導かれて闇の中をフラリフラリと進んでいる。

    ☆

 大河内が優しい物腰で背中に手をかけながら言った。

「いずみ君、マンションに着いたよ。どうしたの? そんな悲しそうな顔で……。なんで泣くの?」

 ごめん。こんなことを相談するべきじゃない。分かっている。それなのに、つい、あたしは吐露してしまう。

「ごめんなさい。騎士のことが好きなんです」

< 86 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop