だから、あたしは
「まだ眠りたくないけど、シャワーを浴びて着替えたい。ねぇ、大河内さん、本棚の本を読んでもいい? 何かとても古い本があるけど、これって、何ですか?」

「この段にある十冊は呪術に関するものだよ。手に取らない方がいい。他のものなら、いくら読んでもいいよ」

「歴史の本が多いのね」

 大河内の寝室の本棚には難しそうな本だらけで漫画というものが一冊もなかった。この人は、ゲームなどにも興味がないらしい。小説も数えるほどしかない。と、思っていると大河内が言ったのである。

「ちゃんと、ベストセラーの恋愛小説も推理小説も読んでいるよ。でも、読み終えたら、すぐに古本屋さんに持って行くんだ。気に入ったものや絶版になったものを置いているのさ」

 初めてのお泊り。あたしは過去にボーイフレンドはいたけれど、彼氏の部屋に泊まった事はない。キス以上のことはした事もない。

 バスルームでシャワーを浴びている間、あたしは自らの身体を細かく点検した。

 あたしの胸は膨らんでいない。小さなチンコがついている。よし。今夜も男の子のままなので、男女として過ちが起きる事はないだろう。

 ボーイズラブに突入した場合はどうすればいいのか悩むところだが、大河内が無理強いするとは思えないのだ。

 それにしても、大河内は、どうして、こんなあたしに対して優しくしてくれるのだろう。

 いつも心地良く包んでくれる。限りなく優しい。このまま彼に甘え続けていていいのかな。

「君のベッドを整えておいたよ。シーツも枕カバーも洗濯したばかりのものだよ」

「すみません。迷惑をかけて」

「いいよ、ねぇ、。オレンジジュースを飲む?」

 はい。お願いしますと言いながらソファに座ろうとした時、治りかけている胸の打撲の箇所が急激に疼いた。

「いたたっ」

「山田くんは本田にやられたんだよね……。桃園くんから聞いたよ。まだ傷むの?」

「ええ、少し。何かの弾みで痛みます」

 大河内は、あたしが受けた暴力の詳細を知っているのね。

「本田は、一年の頃は普通の生徒だったんだよ。親に弁護士になるようにプレシッシャーをかけられて、あんなふうになってしまった。本田の父親は、うちの父親の会社の顧問弁護士なんだ。色々とやさぐれた結果、最近の本田には多種多様な黒い悪鬼が巣食っている」

「悪鬼って何ですか?」

「邪悪な魂の総称だよ。悪い鬼は聖なる魂を嫌う。君も桃園くんも、素直で正直だ。菊太郎くんも魂が澄み渡っている。だから、本田に目を付けられる。薄汚れて腐臭を放っている本田は、清らかなものを見ると癪に障るんだ」

 そう告げる大河内は険しい顔をしていた。彼が発する空気が重く鋭いものに変化している。

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