だから、あたしは
「そんな所に立ってないで中に入ってよ。言いたいことがあるなら口に出して言ってよ。何なのよ、騎士、何で、最近、あたしを避けるのよ」

「……言いたくない」

 顔をしかめている。頑なな態度に思わずカッとなった。

「腹が立つならちゃんと言葉で説明してよ! 何をそんなに怒っているの? 言ってよ」

「俺にも分からないよ! 訳が分からないんだ! 言葉で説明できないんだ」

 白い壁を睨みつけている。そして、焦れたように壁を拳で叩いている。荒れ狂う苛立ちをダイレクトにぶつけているのだ。

「どうしてなんだよ! なんで、俺は馬鹿みたいに腹を立ているんだよ? 桃園から、おまえがここにいると聞いてじっとしていられなくって来たんだよ。昨日、眠れなかった。一睡も出来なくて気付いたらここにいたんだよ!」

「……えっ」

「何とか言えよ。いずみ! なぜ、おまえはここにいる!」

「えっ、だって、あたし家に帰りたくなかったんだもの。騎士こそ、なぜ、そんなに怖い顔をしているのよ!」

「そんなこと聞くなよ! こっちも理由なんか分からないよ! おまえがここにいる事が嫌なんだ。さぁ、今すぐ帰るんだ」

 騎士が強引に腕を引こうとした。

「ちょっと待ってよ。デニムが乾いてないから無理なのよ。やだ、少し待ってよ。こんな格好で出歩けないってば」

 すると、大河内が背後から包み込むようにして腕をまわした。

「行かせないよ。お昼御飯を食べ終えるまでは、山田くんは僕のもの」

「そ、そうなのよ。お昼御飯を食べなくちゃならないのよ。騎士も食べる? 大河内さんの作る料理って、とてつもなく美味しいのよ。香辛料やハーブの使い方が上手いのよ」

 三人で仲良く昼を共にすればいい。食事をしながら互いの事を話せばいいと思っていた。

 しかし、そうはいかないようだ。騎士は渋面になり首を振りグイッと答えを迫ってくる。

「いずみ、ここで選んでくれ。俺と一緒に戻りたいのか、それとも、ここに残りたいのか……。先輩と俺のどっちを選ぶのか言ってくれ」

 切羽詰ったような声。真っ直ぐで鋭い視線がこちらに向けられていた。

「いずみが選んでくれ」

 選ぶも何も無理なものは無理だ。あたし、自分の衣服を持っていないんだもの。この状態で外に出ることなど出来る訳がないわ。

「あたし、ここにいる」

「そっか。そうなんだな。おまえの気持ちは分かったよ」

「騎士!」

 やだー。何でそうなるのよ! 死人のように生気のない蒼白な顔でユラリと出て行ってしまっている。

 一人で帰ろうとしているのね。あっ、待って! ああ、何なのよ。騎士はもういない。あたしの心がはち切れそうになる。振り向いて叫んでいた。

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