だから、あたしは
 不気味なほどに声を抑えながら大河内は目を細めている。

「いいや、今回は僕なりの方法で復讐するしかない。明日、本田と会うつもりだよ。車のガラスを割ったことを詫びる。しかし、本当の目的は他にある」

 えっ、どういうこと。

「本田の家に行き、お詫びの品としてクリスタル製の壷を渡す。本田は、素直に受け取るが、僕が去った後で、その高価な壷を叩き割るだろうね」

 そうでしょうね。あいつが目をぎらつかせて憎らしげに叩き割る様子が目に浮かぶわ。

 ああ、不思議ね。起こるべき未来の光景が、あたしの脳裏にも転写されたかのようだった。

『大河内、てめぇは目障りなんだよ! ふざけんな!』

 本田は忌々しげに壷を割ってしまう。そして、その壷から沸きあがる黒いものに覆い尽くされて呑み込まれてしまうのだ。

「本田は、これまでの罪の報いを受けるべきなんだよ」

 未来を見通すような深い眼差しで言葉を続けている。

「その壷は呪いに満ちている。本田に災いをもたらす邪気が詰まっている。それを吸い込んだなら、もう、あいつは、おしまいだ。これまで他人に与えた災いのすべてが奴の身にふりかかることになる。場合によっては死ぬかもしれないね。あいつが、これまでにどれ程の罪を犯したのか分からない」

 呪いについて語る大河内の目には静かな迫力が宿っていて、まるで、その背後がメラメラと燃えているかのようだった。

 本田の罪が一気に反転することになる。

 これに関して、どう答えるべきなのかは分からなかった。

 本田なんて破滅すればいいと思っている。その一方、恐ろしい呪いを行う大河内への畏怖の念や戸惑いが胸に漂っていたりする。 

 大河内は私利私欲で行動しない。

 大河内は知的で繊細。心の内側に熱いものを秘めている人だ。でも、そんな自分を嫌悪しているようなところがある。この人はいつもそうなのよ。孤独なの。彼は自信の能力を畏怖しているのよ。大河内は、おどけたように寂しげに笑った。

「なーんてね。そんなことは冗談だよ」

 ジョークとして流そうとしたけれども、あたしには分かるわ。大河内は、本田を滅する呪術を施行するつもりでいるのよ。

 それは、とても恐ろしいことだが、それを行使する大河内の心も疲弊する。だけど、それを止めようとは決して思わない。

 だって、因果応報よ。本田は、これまで色々な人を傷つけてきた。そして、この先も災いを振り撒く。その前に阻止するべきなんだもの。
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