だから、あたしは
25 始まりの朝
手術は長時間に渡っていた。やがて、夕刻となった時に大河内はあたしを残して去っていった。

 医師が廊下側へと来て、手術の状況を説明してくれている。 

「かなり激しい脳震盪を起こしています。脳の損傷はないようです。左下肢を亀裂骨折して、鎖骨も複数亀裂骨折しています。しかし、その程度で済んだのは奇跡でしょうね」

 午後の四時。

 事故直後、澄子さんにはメールで連絡を入れていた。彼女は宝塚歌劇を観劇していたが、すぐに病院へと乗って駆けつけると言った。騎士は眠り付けている。まるで物語のお姫様のようだった。

 頭に包帯を巻いている。左足の肘から爪先までギブスがはめられている。

「騎士、ごめんなさい……」

 涙ぐみながら彼の頬に触れる。本来はあたしがこうなる筈だった。あたしのせいでこんな目に遭ったのね……。

 あなたはあたしの王子様。心から好きになったのは、あなただけ……。

 最初に会った時から、おせっかいな人だったね。騎士の手料理は抜群に美味しかった。騎士の淹れたミルクティーが大好きだよ。あたしの為に、こんな身体になっちゃったんだね。

 目頭が熱くなり、胸の奥が沸騰するような衝動を感じた。打ち明けずにはいられなかった。 

「告白するわ。本当に女の子なの。男の子として暮らすしかないの。いろいろ内緒にしないとパパたちが困るの。違法な実験をした罪で親友のママが投獄されちゃうの。だから、人には言えなかったの」

 シンと静かな個室で懺悔するように告げていく。

「何の事だか分からないでしょうけど、男にも女にもなれる薬を飲んでしまったの。でも、そんなこと、言っても信じないでしょうね……」

 性転換の秘薬を飲んだことを打ち明けていた。

「あたしは、本当は女の子なのに男として振舞っていたの。あたしは、時間がたてば女の子に戻ります。一時的に巨乳になった事もあります。でも、また男子になっちゃったの。これがあたしの秘密です」

 眠っている相手にならば、こんなふうにストレートに言える……。

「あたしは騎士が好きなの。あたし、アイリさんに嫉妬した。こんなに誰かを好きだと思ったのは初めてなの」

 あなたの鼓動を近くに感じるだけで、こんなにも唇が震える。こんなふうに傷付いている騎士と二人きりでいる事が辛い。

「助けてくれてありがとう」

 麻酔がよく効いているのか、なかなか目覚めそうになかった。騎士は、昨日、アイリさんの家に入っていったけれど、その後、どうなったのだろう。もしかしたら、二人は結ばれたのだろうか? 

 大河内の予言が外れていたらどうなるの? 騎士が愛しているのはあたしとは限らないじゃないか。

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