だから、あたしは
 自信がなくて心がむ。気持ちが大きく揺らいでいた。たまらなく不安な気持ちになって逃げ出したくなってしまう。あたしは緊張感に耐えられなくなりフッと立ち上がっていく。

「いずみ、待てよ!」

 彼に背を向けた瞬間、不意に、パチッと目を開けたかと思うと手首を掴んだのだ。

 あたしの手を握ったまま手を離そうとはしなかった。

 すべてを包み込むような熱い眼差しがこちらに注がれている。ずっと、すっと、あたしだけを見つめてくれている。大切なものを取り戻すかのように強い力で、あたしの手を握り締めている。騎士は半身をゆっくりと起こそうとしていた。あたしは、ちょっと怯えたように尋ねた。

「騎士、起きていたの? いつから……」

「少し前からかな……。いずみの告白を聞いたよ」

「やだぁ。寝たふりするなんて酷い!」

「安心しろ。いずみの秘密は誰にも言わない」

 だしぬけにニヤッと笑っている。

「おまえのことを信じるよ。巨乳になるっていうところは朗報だ。確かに、あの日のおまえには胸があった。目の錯覚じゃなくて嬉しい」

 やっぱり、あの夜、風呂場のガラス越しに裸のシルエットが見えていたのね。

「秘密にしたいことに関しては詳しく言わなくてもいいさ。でも、これだけは約束してくれ。外泊禁止。俺以外男との恋愛禁止だ」

 いつもの説教臭い騎士が戻ってきたことが嬉しかった。でも、あたしにも不満はあるわ!

「騎士こそキスしてたじゃないの! アイリさんとキスしたよね!」

「あいつに襲われたんだよ。目にゴミが入ったって言うから顔を覗き込んだら、いきなりやられた。あいつの我侭に付き合うと疲れるよ」

 言いながら、手の甲でゴシゴシと唇を拭っている。

「本当に、アイリさんのこと好きじゃないのね?」

「キスしたいと思ったことは一度もない。実際に、唇を押し付けられた時も、頭の中では、おまえのことを考えていた」

「あたしのこと……」

「気が変になりそうだったよ。このまま、おまえと一緒に暮らしていたら、心のどこかがバーンと爆発してしまいそうで怖かった。犯罪者になったみたいな気分だった。おまえにキスされて以来、おまえのことで頭が一杯になった。男を好きになったのかと思ったけど、おまえは女だったんだよな」

「うん。混乱させてごめんね」

 愛しさを込めながら微笑む。包み込むように騎士の頬を撫でていく。トクントクンと静かな鼓動が始まる。

 だんだんと実感が沸いてた。色々な感情が胸に込み上げてきた。胸が熱くなり全身の震えへと繋がっている。涙が、唐突に溢れたかと思うとポトンとこぼれ落ちていた。

「あたし、あなたを誰よりも好き……。だから、あの日、キスしていたのよ……」

「じゃ、俺もそうするぞ」

 鮮やかに引き寄せて優しく髪を撫でなかがら囁いた。口付けられている。嬉しくてたまらない。
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