残念姫、王子に溺愛される
「はぁ…恋羽、仕事行きたくないよ…」

玄関で見送る恋羽を抱き締め、駄々をこねるように頬を擦り寄せている歩稀。

恋羽は、そんな歩稀の背中をゆっくり擦る。
「また、お昼くらいに連絡し合お?」

同棲し始めてから歩稀は、我慢していたタガが外れたように毎回仕事行く前に駄々をこねる。

例え数分でも、恋羽と離れたくない。

しかし恋羽に説得されて、仕事に出るのだ。

「うん、そうだね。
ごめんね、いつも駄々こねて」

「ううん!」

「………よし!じゃあ、行ってくるね!」
気合いを入れたように言う。

「うん!いってらっしゃい!」

恋羽の頬にキスをして、漸く歩稀は家を出たのだった。


まだ恋羽は、春休み中。
洗濯や掃除を終え、恋羽はいつも裁縫ばかりしている。
それは、実家にいた時となんら変わらない。

コーヒーを飲みながら、黙々と作業をしていると……

〜♪♪♪
スマホの通知音が鳴り響いた。

「ん?
…………ミリナちゃん?」

友人のミリナから、メッセージが入ってきた。

【お疲れ〜
今、暇?お茶でもどう?】

恋羽は【もちろん!】と返信して、出掛ける準備をしてマンションを出た。


「――――恋羽!こっち!」
よく行くカフェに待ち合わせて向かうと、既にミリナは来ていて手招きしてきた。

恋羽も軽く手を上げ、席に向かう。

「お待たせ!」

「ごめんね、突然」

「ううん!」

ケーキとコーヒーを注文し、話に花を咲かせる。
「どう?
“天性の王子”との同棲は!」

「うん、幸せ!」

「フフ…そっか!
素敵ね!
恋羽、この数ヶ月でほんと綺麗になったもんね!」

「あ…ありがとう/////」
照れたように微笑み、コーヒーを一口飲んだ。

「王子と付き合うようになって、大学でも話題になってるでしょ?」

「え?そう?かな?」

「気づいてないんだ(笑)」

「え?」

「“綺麗になった”って、噂!」

「誰が?」

「恋羽」

「嘘」

「ほんと」

「そんなの、聞いたことない」

「そりゃあ、そんな簡単に口説いたり出来ないわよ!
だって、仮にも“あの”王子の婚約者よ?
ちょっとやそっとじゃ、声かけられない。
…………でも!また春から気をつけないと!」

ミリナは、意味深に恋羽を見据えた。

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