呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(私達の間に、愛がなかったとしても……)

 ――それだけで、充分だと思わなければ罰が当たる。

「はい。陛下とは、まだ出会ったばかりですが……。私は妻にして頂けただけでも、光栄だと思っています。ですから、ご心配には及びません」
『イブリーヌ……。本当に、大丈夫かい?』
「白猫さんが、陛下の代わりにいてくださるので……」
『オルジェントが聞いたら、怒り狂いそうな言葉だね』

 シロムはイブリーヌの胸元で、ゆっくりと目を瞑る。
 一人で使うには大きすぎるベッドの上で眠るつもりなどなかった彼女は、白猫を抱きかかえて部屋の探索を試みるべきか悩んでいたが――。

(白猫さんが気持ちよさそうに目を閉じて眠る姿を見ていたら、なんだか眠くなってしまった……)

 長年母親に虐げられていたのが嘘のように。
 ここが誰かに加害されることなく、安全に身を休められる場所だと気づいてほっとしたのだろう。

(少しくらいなら、いい、よね……)

 心の中で何度も自身に言い聞かせたイブリーヌはゆっくりと目を瞑ると、白猫を抱きしめたまま意識を手放した。

 ――オルジェントと面と向かって会話をする機会が、この日から数えて三年後になるなど、思いもせずに――。

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