呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
『生まれたままの、姿でね』

 ハクマが補足説明をすれば、イブリーヌはボンッと頬を赤く染めながら恥ずかしそうに視線を落とした。

(本来ならば、私と陛下は……)

 マントの下に覆い隠された彼の身体を想像した彼女は、ブンブンと勢いよく左右に首を振ってその妄想を打ち消す。
 どれほど空想を続けたところで、二人が生まれたままの状態で抱き合うなど、あり得ないからだ。

『オルジェントは、気難しい男なんだ』

 悲しそうに彼女が眉を伏せれば、イブリーヌを慰めるように優しい言葉をかけた。

『無口で不器用で、高圧的。悪しき魂を刈り取る死神として生き続けたせいで、人間らしさが失われていてね。結婚式のことだって、悪気があったわけではないんだよ』

 白猫からのフォローを受けずとも、イブリーヌはよく理解している。

(陛下は、優しい人ですもの……)

 お腹を空かせた彼女のために、わざわざ街へ出かけてりんごを買ってきてくれた。
 亡霊の愛し子と呼ばれ忌み嫌われるイブリーヌを恐れることなく、妻として迎え入れてくれた。
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