呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「失礼する」
「あ、ありがとう、ございました……?」

 店主に一声かけたオルジェントは、愛する妻とともに服飾店をあとにした。

「へ、陛下……!?」

 あっと言う間に問題を解決してしまった彼の姿に驚けば。
 夫は片腕で妻を抱きしめると、先程購入したばかりの髪留めを手に取る。

「動くな」

 彼は低い声でイブリーヌに警告すると、辿々しい手つきで妻の黒髪を手櫛で梳き――黒薔薇のバレッタを頭につけた。

「よく、似合っている」

 夫に褒められた妻は、口元を緩めて微笑む。

「あ、ありがとう……。ございます……。これから、陛下とお会いする時は……。必ず、身につけますね……」
「そうしてくれると、俺も嬉しい」

 オルジェントは先程まで険しい顔をしていたのが、嘘のように。
 目元を緩め、イブリーヌを見つめた。

(なんだかとっても、優しい瞳をしているような……)

 まるで手のかかる妹を、慈しむかのように――。

(もっと、頑張らなくちゃ……)

 彼女は庇護するべき、妹のような存在としてではなく。
 妻として愛されるように精進しなければと、心の中で気合を入れる。
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