呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
 カフェテラスの椅子に座ったイブリーヌは、注文した料理が運び込まれた瞬間に、キラキラと瞳を輝かせた。

(チョコレートケーキ、おいしそう……)

 数あるスイーツの中から一つだけを選べなかった彼女は、一口サイズのミニケーキがスクエア型にカットされたアラカルトを注文していた。
 だが、そこにはチョコレートケーキだけがラインナップされていない。

(人のものを欲しがるなんて、駄目だよね……)

 自分の分はこうして、目の前に用意されているのだ。
 それを食べることに集中するべきだろう。

 そうして気持ちを切り替えたイブリーヌはスプーンとフォークを手に取り、夫の注文したものから視線を外すが――。

「食べるか」

 恨めしそうにオルジェントがスプーンをチョコレートケーキに突き刺した様子を、じっと見つめていたからだろう。

 その視線に気づいた彼は、スプーンでケーキを一口切り分けてから。
 妻へと差し出した。
< 115 / 209 >

この作品をシェア

pagetop