呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「いえ、そ、そんな……! 私だけ、いただくわけには……!」
「ならば、交換すればいい」
「え、ええと……」

 思ってもみない提案を受けたイブリーヌは、しばらく固まっていたが……。
 差し出されたチョコレートケーキを拒めば、すぐにでも夫の胃袋に収まってしまうはずだ。

(陛下のご厚意を、断るほうが失礼だ……)

 それを恨めしそうに見つめる自分の姿を思い浮かべた彼女は、素直に彼の申し出を受け入れると決めた。

(どれを代わりに、渡せばいいんだろう……?)

 イブリーヌは困惑しながらも。
 悩んだ末、抹茶ケーキを一口分フォークで掬い取ると、夫の口元へ差し出した。

「では、こちらを……」
「ああ。ありがとう」

 オルジェントはお礼を告げると、当然のように差し出された抹茶ケーキを口に運ぶ。

(これから私も、こんな風に……。陛下に差し出されたスプーンを、口の中に入れるのね……)

 それを凝視していたイブリーヌは、頬を赤く染めながら。
 緊張を隠しきれない様子で、フォークを震わせた。
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