呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「ど、どうして……」

 これにはイブリーヌも目を見張り、呆然と呟く。
 普段はオルジェントがそばにいれば、悪しき魂達の声は嘘のように鳴りを潜め、聞こえなくなっていたからだ。

「これは……」

 例外があるとすれば、彼らの機嫌がいい時か――彼女に危機が迫っている時だけ。

 異変を悟ったオルジェントが背中の大鎌に手を伸ばせば、水を嫌がっていたハクマが暴れるのを止め、静かに告げる。

『僕の番が、悪夢から目覚めたようだ』

 その声に反応を示した泥水が空中で蠕き、白猫によく似た何かを形作った。

「白猫、さん……?」
『いや。あれは違う。闇の化身――黒猫だ』
「それって……」
『身を清めている場合なんかじゃない。対策を立てないと!』

 泥水を掻き分けたハクマは、バケツから飛び出そうとしたところで足を引っかける、
 盛大に土の上へ、汚水をぶち撒けてしまう。
 バケツの中に入ったままゴロゴロと転がる白猫の姿を目にしたイブリーヌは、慌てた様子で獣に駆け寄った。
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