呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(違う。陛下は、優しい方だわ……。亡霊達が言うほど酷い方でもなければ、私のことだって……)

 好意を持っていなければ、そばにいようなどとは思わない。
 積極的に触れ合い、イブリーヌを庇う素振りなど見せないはずだ。

『騙されてるよ』
『あいつは悪い奴なのに』
『私達の仲間を、連日切り刻んでる』
『悪魔』
『死神』

 両耳を抑えた彼女は、彼らの声を掻き消すために力いっぱい叫ぶ。

「陛下のことをっ! 悪く言わないで、ください……!」

 イブリーヌの強い拒絶は、亡霊達が囁く声をかき消す力になる。

(もう、嫌……っ。どうして、私だけ……)

 荒い息を吐き出し怯える彼女は瞳に涙を潤ませると、自らの身を両手で抱き締めた。

(陛下に、会いたい……)

 このまま一人でいたら、心が壊れてしまいそうだ。
 イブリーヌはすくりとベッドの上から立ち上がると、ふらふらと覚束ない足取りで寝室を出た。

(陛下……)

 王城で働く人々は、白猫を連れずに廊下を歩くイブリーヌの姿を目にして、不思議そうに首を傾げる。
 周りの視線など気にする余裕もない彼女は、宛もなく彷徨い歩いた結果――。
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