呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(逃げなくちゃ……)

 一歩、ニ歩と後退りするイブリーヌの姿を視界に捉えた女性の胸元には、いつの間にかハクマによく似た黒猫が抱きかかえられていた。

「どこへ行くんですの」

 焦点の合わない赤い瞳が、何かを言いたげにじっとこちらを見上げている。

「ひ……っ」

 恐怖で喉を引き攣らせたイブリーヌが、声にならない悲鳴を呑み込んだ瞬間――悪しき魂達がどこからともなく愛し子を守るために現れた。

「や、止めて……!」

 彼らは彼女の命令に、黙って従い動きを止める。

(亡霊に彼女を無効化させるように願うのは、簡単だけど……)

 亡霊達がどれほど恐ろしい存在であるかを、よく理解しているからこそ。
 イブリーヌは女性に攻撃してほしいとは、願えなかった。

「その恐怖に引き攣った顔。とても素晴らしいですわ……!」

 その結果、自らが危険に晒されることになったとしても……。
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