呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(全部、私のせい)

 亡霊が彼女の耳元で囁く憎悪が、大きすぎたのだ。

『そうだ。君のせいだ』
『妻になんて、ならなければよかったのに』
『私達を選んでいれば、苦しまずに済んだのよ?』
『裏切り者』

 イブリーヌはみるみるうちに、恐ろしい闇の波動に飲み込まれていく。

(抗わなければ。耐えなければ……)

 彼女は必死に首を振り、時には拒絶の言葉を紡ぎ、助けを求めるように手を伸ばす。

『イブリーヌ』

 その指先に小さな肉球が触れたが、それでは足りない。
 彼女が求めるのは、白猫ではなく――。

(助けて、陛下……)

 ――夫の手であったからだ。

(私よりも……。あの方を慕っているのでしたら……)

 イブリーヌは何日も悪夢に魘されながら、思考を巡らせる。

(どうして私と、夫婦になどなったのですか……?)

 このままここにいたところで、オルジェントが姿を見せることはないだろう。

(あの女性のことを、好きだと。離縁してほしいと言われたら……。私はこれから、どうすればいいのでしょう……)

 ――ならば。
 イブリーヌが彼の元へ姿を表し、直接その問いかけをするしかない。
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