呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
『アヘルムス国に帰ろう』
『亡霊の女王になればいいんだよ』
『嫌なことも全部忘れて、壊しちゃえ』

 戸惑う彼女に、亡霊達は囁いた。

 彼らにとってイブリーヌがこうして安全な場所で庇護されている状況は、なんの面白みもない。
 駄目だった時は派手にぶちかませばいいとアドバイスを受けた彼女は、悪しき魂達の声を耳にしたのが間違いだったと考えながら、足元で目を瞑っていた白猫を抱き上げる。

「私を陛下の元へ、案内してください……」
『イブリーヌ……。僕は……』
「お願い、します……」

 イブリーヌに懇願されたシロムは、明らかに嫌そうな顔をしたが……。
 明らかに憔悴しきっている彼女を放置すればどうなるかなど、火を見るより明らかだ。

『行こう』

亡霊に唆され、最悪の結末を迎えるのだけは避けたい。
 そう考えた白猫は渋々了承すると、イブリーヌをオルジェントの元へ誘導した。

(もっと早くに、こうしておけばよかった……)

 ハクマを抱きしめた彼女は、覚束ない足取りで寝室を出る。
 金髪女性とともにいる夫の姿を何度も思い浮かべたイブリーヌは、唇を噛み締め――オルジェントを信じようと何度も自分に言い聞かせていた。
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