呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
 愛する妻を寝室に連れ帰ったオルジェントは、彼女をベッドに横たえる。

「イブリーヌ……」

 マントと大鎌を外して縁に腰かけた彼は、青白い顔で眠りにつくイブリーヌの黒髪を手櫛で何度か梳く。

(どうして俺はいつも、彼女を悲しませることしかできないのか……)

 愛を囁けないと言う呪いは、本当に不便だ。
 どれほど彼女を想っていても、イブリーヌには伝わらないのだから。

(こんな状況で、どうやって彼女に好意を抱いてもらえと言うんだ……)

 呪いを解くには、妻の協力が必要不可欠だ。
 夫婦が相思相愛にならなければ、彼は永遠に彼女へ対する愛を囁けない。

(気が狂いそうだ……)

 離縁騒ぎの直後から。
 オルジェントはできる限りイブリーヌのそばにいることを選び、今まで触れ合えなかった分だけたくさんの愛を注ぎ込んだつもりだ。

(どうしてイブリーヌは、俺の言うことを聞いてくれないんだ……)

 だが――言葉にして愛を伝えられないと言う制約のせいで、オルジェントの妻に対する気持ちは一ミリも伝わっていないように思えて、仕方がなかった。
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