呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(君の望むことなら、なんでもしてやるのに)

 彼は表に表しきれない気持ちを発散するため、彼女の美しい花絹糸のようなを一房手に取ると、口づけを落とした。

(言葉にできないのは、仕方がない。だが、かわいいや美しいまで塞がれてしまったら……。こうして過剰に触れ合うくらいでしか。彼女に対する愛を、伝えられないじゃないか……)

 オルジェントは自身の奥底から、言いようのない怒りが湧き上がるのを感じる。

(悪しき魂どもめ……。俺の愛しき妻を奪おうとするだけではなく、傷つけ悲しませるとは……。なんと言う奴らだ……)

 彼女の黒髪から指を離した彼は、一度手放した大鎌を手繰り寄せると、愛する妻を苦しめる亡霊達を叩き切るために虚空で武器を振り回す。

(許さない)

 そこに悪しき魂がいようが、いまいが、今のオルジェントにはどうでも良かった。

(あの女も、こいつらも……)

 これはただのストレス発散であり、八つ当たりだ。

『やっぱり死神は悪い奴!』
『愛し子にはふさわしくない男!』

 その様子を目撃した、オルジェントに好意的だった亡霊達の一部が――イブリーヌと相思相愛になることに異を唱えたとしても構わなかった。
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