呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(陛下にも何か、理由があるはず……)

 ――夫を思いやる妻の気持ちは、無惨にも踏み躙られる。

「オルジェント様ったら! こんなところで、駄目ですわ……!」

 イブリーヌに背を向けていたオルジェントは、彼女の前で金髪女性を抱きしめていたのだ。

(ただ密着しているだけなら、きっと許せた……)

 勘違いかもしれないと伝えたい言葉を飲み込んで、痛みに耐えていただろう。

(妻の私ですらも、陛下に触れることが叶わないと言うのに……)

 どうして自分は駄目で、あの女はいいのか。
 そう考えるだけで気が狂いそうになった彼女は――プツンと理性を途切れさせてしまう。

『イブリーヌ……』

 腕の中で大人しくしていた白猫が不安そうに名を呼ぶが、イブリーヌには聞こえない。
 心の奥底から、我慢しきれない怒りが湧き上がった。

(陛下には感謝している。彼がいなければ、私はあの地獄から逃れられなかった)

 だが、それとこれとは――話が別だ。
< 17 / 209 >

この作品をシェア

pagetop