呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(愛の言葉こそ、口にされたことはないけれど……)

 結婚式で誓いの口づけを拒んだのが、嘘のように。
 イブリーヌを大切にしていることだけは、充分に伝わっていた。

「いつも、優しく、手を差し伸べてくださって……。私は、陛下がいないと……」
『なるほどね。その気持ちは、誰に何を言われようとも、ちゃんとオルジェントに伝えないと駄目だよ』
「白猫さん……」
『こうやって、僕をかわいがる時みたいに。たまにはイブリーヌからも、積極的に行動してみるのも、悪くはないかもね』

 ハクマの身体を、優しく撫でつけていれば。
 オルジェントと距離を縮めるためには、自ら行動あるのみだと。
 イブリーヌは白猫からアドバイスを受けてしまった。

(私に、できるだろうか……)

 彼女は一抹の不安を感じながらも、小さく頷く。

「わ、わかりました……」
『オルジェントを狙う不届き者の存在も、気がかりだからね……』

 不穏な白猫の言葉にビクリと肩を震わせれば。
 彼女を安心させるように、ハクマが胸元に頬を寄せて甘える。

(陛下に、早く会いたいな……)

 触り心地のいい小さな身体を優しく抱きしめたイブリーヌは、ささやかな幸せを堪能しながら。
 オルジェントが姿を見せる瞬間を、待ち続けた。
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