呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
 オルジェントはイブリーヌが寝ている間も、遠慮なく叩き起こして構わないと告げたからだろう。
 彼は夜更けに彼女が眠るベッドに潜り込むと、身体の隅々までにたくさんの口づけを送るようになった。

(あ、陛下……。また来てくださったんだ……)

 意識を覚醒させたイブリーヌは、微睡む意識の中で。
 彼の姿を探し、視線を合わせるたびに微笑む。

(……私は今、とても、幸せです……)

 夫が一緒のベッドに横たわっている。
 それを知った彼女が、再び眠りの国へと旅立ち――目を覚ました時に、彼の姿はない。

(これが悲しいなんて、思ってはいけない……)

 わがままを伝えて何年も会えなくなるくらいなら。
 今のままがいいに、決まっている。

 欲張るほど自身の身に不幸が降りかかると知っていたイブリーヌは、伝えたい言葉をぐっと呑み込み――そうして、オルジェントに報告しなければならない出来事にすらも、見ないふりをした。

『イブリーヌ』

 ――最初の異変は、オルジェントが隣で眠る真夜中に起きた。
 窓の外から、彼女の名前を呼ぶ声が聞こえて来たのだ。
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