呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(陛下に、嫌われてしまう……!)

 またあの日のように拒絶されたらどうしよう。
 またあの日みたいに冷遇されたら。
 また、また、また、また――。

 もしもの可能性ばかりが彼女の脳裏に過る。
 それらは、イブリーヌを苦しめた。

「いや……。私、そんな、つもりじゃ……!」
「イブリーヌ」
「私の名前を、呼ばないで……!」

 自身の名を呼ぶ化け物と愛する夫の声が混ざり合い――恐ろしい悪魔のように聞こえるなんて、重症だ。

 彼女はすべてを拒絶するようにベッドの上で丸くなると、オルジェントが抱きしめようとする手すらも拒んでしまった。

「すまなかった」
「へ、陛、下……?」

 イブリーヌが我に返って顔を上げた時には、オルジェントの姿はない。
 彼女は夫のどこか寂しそうに謝罪を告げる声を何度も繰り返し思い返すと、全身を震わせながら否定の言葉を心の中で紡ぎ続ける。

(違うの。私は陛下を、傷つけたいわけじゃないのに……!)

 心の中で何度も否定したところで、それが彼に伝わらなければ意味がない。
 追いかける勇気のない彼女は、ベッドの上で嗚咽を漏らし続けることしかできなかった。
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