呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(まずい……)

 目を見開き全身を震わせるイブリーヌの周りには、先程までは鳴りを潜めていたはずの闇のオーラが充満し始める。

「ま、待って……! やめて……っ。そんなの、望んでない……!」

 イブリーヌは髪を振り乱して首を左右に振ると、苦しそうに言葉を絞り出す。
 目の前にいる女性はそんな彼女の姿を忌々しそうに見下すと、イブリーヌに心無いない言葉をぶつける。

「また、見えない何かと話し込んでいるの? 本当に、気味の悪い子ね!」
「ち、違う……っ。私……」
「あんたなんて、産まなきゃよかったわ」

 少女の反論など聞きたくないとばかりに吐き捨てた女性は、彼女の母親であったようだ。
 よく見ると、顔立ちがよく似ている。

 突如目の前で繰り広げられた修羅場を不愉快そうに眺めていた彼は、いつ何が起きてもいいように。
 警戒を怠ることなく、背中に背負った鎌の柄に指を這わせた。

「あんたを生かしてやっているのは、亡霊の愛し子なんて呼ばれている娘を死に追いやったら、呪われそうだからよ。こんな粗末な食事にありつけるだけでも、ありがたいと思いなさい!」

 女性はイブリーヌにそう叫ぶと、土の上に力なく座り込んだ娘を労ることなく、踵を返して去って行った。
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