呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「俺の名はオルジェント・ドゥム・アヘンドス」
「アヘンドスって……」
「ヘスアドス帝国の皇帝だ」
「陛下……?」
「君の名を、教えてくれないか」

 まさかこのような場所へ、敵国の皇帝が姿を見せるなど思いもしなかったのだろう。瞳を大きく見開いたまま、彼女は歌うように呟く。

「イブリーヌ・ミミテンス」

 イブリーヌの家名は、オルジェントも耳にしたことがあった。

『アヘルムス王国のミミテンス公爵家に、亡霊の愛し子が生まれたみたいね』
『彼女はオルジェントの対となる存在だ。注視するように』

 幼い頃に両親が交わしていた会話を思い出したオルジェントは、彼女と視線を交わらせた瞬間に、不思議な感覚に陥った理由を悟る。

(これも運命か……)

 イブリーヌを拒むことなく受け入れると決めた彼は、土の上に散らばったトマトの残骸に視線を向けた。

「あんなものを、口にするな」
「です、が……。あれを食べないと、私は……」
「食料なら、好きなだけ俺が運んでやる」

 オルジェントの提案を受けた彼女は、信じられないものを見る目で彼を見つめた。
 その瞳は、不安そうに揺らいでいる。
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