呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
『イブリーヌは我らのものだ』
『死神には渡さない』
『あの子を欲するのであれば……』
『地獄に落としてやる』

 悪しき魂達の声を耳にしたオルジェントは、彼らに説教をしてやりたい気持ちでいっぱいだった。

(喧嘩を売る相手が、違うだろう)

 イブリーヌが母親から酷い扱いを受けているのは明らかだ。
 真っ先に始末するべきは、彼ではなくあの女性のほうなのだが――。

(待てよ……)

 彼はあることに気づき、ピタリと足を止めた。

 ――亡霊達は恐れている。
 オルジェントが彼女を救うことを。

 ――悪しき魂達は黙認した。
 イブリーヌが虐げられているのを知りながら。

(まさか、こいつらは……)

 ――彼らは絶望した彼女が、命を落とすのを望んでいる。

『こんな世界で生きている意味なんて、ないでしょう?』
『我らが愛し子』
『早く女王になって』

 オルジェントの推察が正しいと、決定づけるかのように。
 亡霊達はイブリーヌの耳元で囁いた。

(あれは、呪いだ)

 彼女が悪しき魂達の声を聞きたくないと、耳を塞ぐのも無理はない。
 イブリーヌが彼らの言葉を真に受け、生きることを諦めたその時は――。
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