呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「なんだ、ここは……」

 顔を上げた彼の目に飛び込んできたのは、悪しき魂達が犇めき合う――今にも崩れ落ちそうな、2階建ての古びた洋館であった。

『趣がある建物だね』
「は、はい。そうなんです。いつ倒壊するかわからないので、長い間立ち入りが禁じられていたそうで……」

 イブリーヌの暮らす建物を目にしたシロムの感想は、完全に嫌味であったが……。
 彼女にはうまく、伝わらなかったようだ。

「そんな場所で、よく暮らせるな」
「雨風を凌げる場所は、ここしか知らないので……」

 オルジェントが素直な気持ちを口にすれば、イブリーヌはどこか寂しそうに微笑むと、彼に中へ入るように告げた。

(やらかしたな……)

 言葉選びを間違えたことに気づいた彼は露骨に顔を顰めたが、オルジェントに背を向けた彼女はそれに気づけない。
 二人の仲を取り持つため、白猫は明るい声をイブリーヌに向けて響かせた。
< 42 / 209 >

この作品をシェア

pagetop