呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
『イブリーヌ。僕達を自宅まで案内してくれて、本当にありがとう』
「いいえ。こちらこそ……。危険を顧みず、足を踏み入れてくださるとは思いませんでした」
『そうなのかい?』
「はい。陛下と白猫さんが初めてです。ここに暮らすように命じた母でさえも。室内へ入室するのは、嫌がりますので……」

 オルジェントを室内のリビングまで案内した彼女は、今にも朽ち果てそうなボロボロのソファーに座り、淡々と声を発した。

(異常な生活環境にも、程がある)

 彼女の前に置かれた木製の椅子になど、座ろうとする気も起きない。
 イブリーヌはそれを、彼が身に着けた上質な衣服を汚したくないからだと読み取ったようだ。
 ポンポンと膝の上を叩きながら、オルジェントを見上げた。

「申し訳ございません……。ここには陛下が安心して腰を下ろせる椅子の、ご用意がなくて……。よろしければ、私の上にお座りください」

 彼女はそれが当然だと言わんばかりに、細い脚を惜しげもなく彼の前に晒した。

(彼女は一体、何を言っているんだ?)

 オルジェントは言葉の意味が理解できず、眉を顰めた。
 満足な食事すらも取れていない彼女の手足は見るからに細く、かなり華奢な身体をしている。
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